ひとだま

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「この辺、昔はひとだまが出たらしいよ」  二人の少女が夕焼けの田舎道を歩いている。  実希(みき)は、前から飛んでくるアキアカネに気づいて指を伸ばした。トンボは少女の指先をすり抜けて行った。 「お父さんは見間違いだって言うけど。本当は、発光する虫とか……」 「ふーん」  すぐ後ろを歩いていたリカは、目の前に飛び出してきたトンボに気づくと手で追い払った。すげない相づちに、実希は話題を変えた。 「明日、モールに行くんだ」  とたん、相手の反応が変化した。 「モールに行くの? いいなあ!」  リカにとって、隣町のショッピングモールに行くことは帰省先で一番の楽しみらしい。心底うらやましそうにため息を吐いた。 「あたしも行きたいのに。うちのパパ、全然車出してくれない」 「じゃあ、一緒に行けるか聞いてみようか?」 「ほんと? 絶対ね! 一緒にお洋服見ようよ。あたしが実希ちゃんに似合うのを探してあげる」  実希は、自分の恰好を見下ろした。T シャツにカーゴパンツ、くたびれかけたスニーカー。リカの、肩出しのカットソーに白いショートパンツ、ヒール付きのサンダルとは対照的だ。 ――リカちゃんがクラスメイトだったら、友達にはなってないだろうな。  実希は思った。リカだってそうだろう。小学三年生ともなれば、似た者どうしで集まるのがふつうだ。  けれど今は夏休みで、二人はそれぞれの地元から離れ、祖父母の家に泊まっている。他に子どもがいない中、行動を共にするのは自然な成り行きだった。 「実希ちゃん、いつまでこっちにいられるの?」 「来週の日曜日まで。リカちゃんは?」 「あたしは金曜までだよ。でも、まだ一緒に遊べるね!」  リカが笑う。実希も笑顔を返した。  何といっても、ここでは互いに一人きりの友だちなのだ。
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