ひとだま

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 リカの家まで来ると、前庭に見覚えのない黒い車が停まっていた。隣県のナンバープレートが付いている。 「お客様?」  そのとき、母屋の戸が開いて少女が二人出てきた。二人ともすらりと背が高く、クラスの人気者になりそうな美人だ。それを見たリカが大声を上げた。 「サトコおねーちゃん! アミちゃん!」  驚く実希を残し、二人に走り寄る。 「あ、リカちゃん。久しぶりい」 「来てくれたんだ、嬉しい! いつ来たの?」 「ついさっきよ。先にお墓参りしてきたけん」 「えーっ。リカも一緒に行きたかったぁ!」  リカは身もだえした。あまりの変わりように、実希があっけに取られていると、年上の方の少女と目が合った。 「あの子、リカちゃんのお友だち?」  もう一人の少女もこちらに目を向ける。しかし、リカの答えはあっさりしていた。 「近所の子だよ! ねえ、今日は泊まるんだよね? 二人のお洋服も見せて!」  そうして、リカは振り返ることもなく二人の少女と家の中に入ってしまった。 「今日はリカちゃんち行かないの?」  仏間に寝そべって本を読む実希に、掃除機を持ってきた母が尋ねた。 「リカちゃんは従姉妹と遊んでる」 「あんたは一緒に遊ばないの?」 「うん」  従姉妹たちがやって来た日から、リカとの交流はぱったり途絶えた。  ここ数日、実希は一日のほとんどを本を読んで過ごしている。 「暇なら掃除手伝って」 「ええー」 「じゃ、散歩でもしてきなさいよ」  母が年代物の掃除機をかけ始める。騒音に追い立てられ、実希は家を出た。父と祖父母が農作業をしているはずだが、畑へ行くにはリカの家の前を通らなければならない。実希は少し迷ったが、結局、畑に向かった。  黒い車が視界に入ると、足が速くなる。折悪しく、家の中からはずんだ声が聞こえてきた。 「ねえ、早く行こうよ!」  戸が開き、出てきたのはリカと従姉妹たちだった。 「モール楽しみだね! ねっ!」 「はいはい」 「リカ、アミちゃんとお揃いで水着を買いたいなー」  嬉しくてたまらない様子のリカは、満面の笑みを浮かべている。その笑顔が、道端に立つ実希を見たとたん固まった。従姉妹たちや、後から出てきたリカの母親も実希に気づいた。 「あら、実希ちゃんも誘ったの?」  どうやら誤解されたらしい。実希が否定しようとしたとき、リカが叫んだ。 「誘ってない! 実希ちゃんは行かないよ!」  リカの剣幕に、従姉妹たちは顔を見交わす。リカの母親も眉をひそめ、娘に向き直ろうとした。 「あの、あたし。畑に行くとこなので。さよなら!」  それだけ言うと、実希は返事も待たずに駆け去った。
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