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大学生×大学生(片思い)
だからさ、もうやめてくれよ。
お前にとっての当たり前が、どれだけ俺を苦しめているかも知らないで。
「ほら」
そう言って差し出された飲みかけのペットボトル。今更間接キスが、なんて騒ぐような齢じゃないのはわかってる。お互い、もう大学生だしな。けど、そうやって何の迷いも躊躇いも遠慮もなく、友達だし当たり前だろ、みたいな顔で差し出されるペットボトルはさ、俺にしてみればどんなナイフよりも胸を抉ってくるわけよ。わかる?
わかんないだろうな。お前は〝普通〟だから。
お前のスマホで待ち受けに設定された、漫画みたいな美男美女のツーショット。彼女と付き合うことになったとき、上手に笑えなかった俺を見てお前、言ったっけ。ひょっとしてアイツのこと好きだった? 悪い、ってな。馬鹿じゃねぇの。あんな女どうでも良かったよ。俺には、最初からお前しか見えていなかったんだから。
って、もう一年以上も昔のことを、こんなペットボトル一本で思い出しては勝手にヘコむ俺ってキモいよな。ああ、そうだよ。お前にとって俺はただの高校時代からの腐れ縁。同じ大学に進んだのは偶然でーー少なくともお前はそう思っているだろう。いや、それももういいんだけどさ。
「どした、顔が蒼いぞ」
「……そ、そうか?」
「とりあえず飲めよ。ちゃんと飲まねーとまた倒れるぞ。今度倒れたら次は運んでやらねーから」
「わ、悪かったよ……」
そういえば前回の試合でも、試合中に倒れてピッチの外に運ばれたんだっけ。その時、俺を抱えて運んでくれたのがこいつだった。……気絶していて良かったと思う。意識があったら多分、色々と耐えられなかった。
「お前に倒れられるとほんと、困るんだよ。うちじゃ貴重な司令塔だからな」
そしてあいつは、俺の手にペットボトルを押し付けると、そのままボールを追って敵陣へと走り出す。当たり前の人生を、当たり前に駆け抜ける人間だけが放つ眩しさ。俺も欲しかったよ、それ。もう少し時代が変われば、また事情も違ってくるんだろうけど。
でも多分、あの背中には間に合わない。
だからせめて、このひとときだけはチームメイトとしてあいつを支える。そう自分に言い聞かせると、俺は、渡されたペットボトルを豪快に呷った。
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