12 さくらの秘密特訓

1/2
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ

12 さくらの秘密特訓

12 さくらの秘密特訓①  教育実習5日目。  今日も緊張の一日を過ごした。  授業実習は、2年8組以外のクラスを教えた。  クラスが変わると違った緊張感があって、あっという間に放課後になっていた。  控室に戻ったわたしは、金剛さくらの特別練習をするために外出の準備だ。 「あれ、緑ちゃん今から帰るの? 体調でも悪いの? 」  わーい。伸二君が、心配してくれている。 「違うの。今日は、今から生徒を連れて行くところがあって。もちろん生徒の特別指導をするということで許可は取ってあるよ」 「それって、合唱コンクールがらみのこと? 緑ちゃん熱くなるからね」 「そう。突っ走ってるからね。もう止められないわ」 「そっか。緑ちゃん、いい顔してるよ。高校生時代を思い出すよ」 「伸二君もいい顔してるよ。じゃあ行ってくるね」  わたしは、控室を出て玄関に向かった。玄関では(すで)に金剛さくらが帰り支度をして待っていた。 「お待たせ。じゃあ行こうか」 「はい、で、先生どこへいくんですか? 」 「大学よ。坂の下の停留所からバスに乗って行くからね」  大股(おおまた)でスタスタと歩くわたしの後を、さくらは小股(こまた)でついて来ている。  わたしたちは『高等学校下』停留所からバスに乗り『香川中央大学前』停留所で降りた。 「大学へ行くんですか? 」 「そうよ。あそこで、今から特訓するからね」  わたしは、そう言ってキャンパスの体育館を指さした。 「ええ? 何それ? 」  体育館に入ると、ひとりの大学生がわたしたちを見つけて手を振りながら駆けて来る。 「緑ちゃーん。久しぶりー! 会いたかったよー! 」 「わたしもだよ! 貴美(きみ)ちゃん! 」  わたしたちは、熱烈なハグをした。  わたしは、地元の大学に進学した高校時代の同級生、中山(なかやま)貴美子(きみこ)に会いに来たのだ。もちろんさくらの特訓の為に。 「ああ! この人あのビデオで、踊ってた人や」  さくらが思わず大声で言った。そうだ、貴美ちゃんに紹介しなきゃ。 「この子が、昨日電話で話した2年8組の金剛さくらさん」 「こ、こんにちは。金剛さくらです。あ、あの、せ、先輩が踊っている所をビデオで見ました。ものすごく綺麗(きれい)で感動しました」  めずらしくさくらは、ほほを赤くして興奮していた。  こんな所が可愛いなこの子は。 「ありがとう。わたしは、教育学部、特別支援教育コースの中山貴美子です。大学でもダンス部で踊ってます。金剛さくらさんていい名前ね。さくらちゃんて呼んでいい? 」 「は、はい。あの、ひょっとして特訓て中山先生から教えていただけるんですか? 」 「ええ、昨日、緑ちゃんからしっかり頼まれたからね。ああ、それから私のことは貴美先輩でいいからね。私堅苦(かたぐる)しいのは苦手だから。ね、緑ちゃん」 「そうね。じゃあ、貴美先輩、『ダンス指導の仕方』をさくらちゃんに教えてあげてください」  わたしは、引率教員(いんそつきょういん)らしく頭を下げた。 「きゃあ。緑ちゃん先生みたいでかっこいいー。それじゃあ、中島先生もさくらちゃんもトレーニングウエアに着替えてね」  わたしとさくらは体育館内の更衣室で着替えをした。わたしもさくらもTシャツにハーフパンツ。ちなみに貴美ちゃんも同じだ。  貴美ちゃんは、私たちを前にして、 「ダンスは、楽しく踊らないと体が動かないからね。まず、さくらちゃん自身がたのしくなること。さくらちゃんが楽しくなったら、みんなも楽しくなるからね」  と言った。 「は、はあ……」  さくらは、いまいちピンとこないようだ。 「それから心構えね。恥ずかしがらないこと。さくらちゃんはダンスが上手だから大丈夫だけど、踊ることが恥ずかしい人もいるの。恥ずかしさをとるために、まず楽しくなることから始めてね。  始めに、音楽に合わせて体が動くように歩くことから始めましょう。これは準備運動にもなるしね」  そう言って貴美ちゃんはラジカセの準備を始めた。これは、わたしが初めて貴美ちゃんからレッスンを受けたやり方だ。中山式メソッドね。 「中島先生は、『レベッカ』の曲が好きなのよね。私も聞いているうちに好きになったよ。ということで、『Cotton Time』という曲でゆっくり歩きながらはじめるね。  緑ちゃん、この歌ちょっと胸キュンでいいよね。だんだん気分が乗ってきたら自由に踊っていいからね」  貴美ちゃんは、曲をスタートさせた。わたしたちは、曲に合わせて、歩き始めた。さくらはリズムに合わせて、時折(ときおり)ステップやターンをした。  貴美ちゃんもアドリブでダンスをしているが、あまりニコニコしていないよ。楽しくないのかな……。  そして、曲が終わった。貴美ちゃんは、涙を流しながらラジカセをストップさせた。 「貴美ちゃんどうしたの? 」  わたしは、貴美ちゃんの背中をさすりながら聞いた。 「ごめんなさい。歌詞を聞いていると切なくなっちゃって」  貴美ちゃんは、感受性(かんじゅせい)が豊なんだよね。そんな貴美ちゃん可愛くて大好きだよ。 「それと、さくらちゃんのダンスを見てるとその切なさが表現されてるようで、余計に感じちゃった。さくらちゃんは、バレーかジャズダンスをしたことがあるの? 」  貴美ちゃんがさくらに聞いた。 「はい。小学校の時はバレーを習ってました。中学校に入ってからはジャズダンスを習い始めて、今も習ってます」  さくらは、答えた。そうか、それでダンスが上手(じょうず)なんだ。 12 さくらの秘密特訓②につづく
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!