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2 3人の実習生
ノックをして会議室の引き戸を開けた。
すでに集まっている関係者が一斉にわたしに視線を向けた。
あわてて腕時計を見る。9時59分、遅刻じゃないし。
「し、失礼します。東京科学教育大学4年の中島緑です」
「どうぞ、中島さんお座りください。みんなもう揃ってますよ」
女性の先生が空いていた席にわたしを促した。この先生、名前は知らないけど確か前からいた先生だ。
椅子に座って、改めて部屋を見渡した。
教育実習生が、2人私の横に座っていた。
ひとりは三上伸二、伸二君とは卒業後、手紙をやり取りしたりお互いが帰省した時に会ったりしていた。遠距離恋愛というにはまだまだな関係かな。
教育実習でここに来ることは連絡していたから特に驚かなかった。
わたしの目を引いたのはもうひとりの実習生。
新庄オリビアじゃないの。彼女も実習生なの? オリビアはわたしを見て軽く会釈をしてニコっとした。
「じゃあ、今年度の教育実習生の打ち合わせ会を始めます。私は、教育実習担当の教務主任の沼野と言います。よろしくお願いします。
皆さんは、教員免許取得のため、来週からの3週間本校で、教育実習を受けてもらいます。
今からの予定は、校長に挨拶に行って、その後ここで皆さんの指導教諭と担当クラスの紹介をします。あとは、それぞれの指導教諭と今後の打ち合わせをして、解散です」
緊張するなあ。どこのクラスの担当になるんだろう。指導教諭はだれだろう。
「緑ちゃん、バッチリ決まってるね。かっこいいよ」
左横に座っていた伸二君が、小声で言った。そこは、『かっこいいよ』じゃなくて『かわいいよ』じゃない。たぶんそう言いたかったとは思うけど。
「ありがとう。伸二君もなんかもう先生みたいだよ」
わたしは、言った。伸二君はビビりだけど、見た目は落ち着いているからなあ。
「お久しぶりね、三上さん、中島さん。3週間よろしくね」
オリビアが握手をしてきた。確かオリビアのお母さんがアメリカ人のはず。さすが挨拶の仕方が違うね。
わたしと三上君は、オリビアと握手をした。
高校時代はオリビアとはクラスが違っていたけど、合唱コンクールの後、たまにオリビアがわたしや三上君に話しかけてくることがあった。大概が好きな歌など音楽についての話題だったけど。
「では、校長室に行くのでついて来て下さい」
わたしたちはぞろぞろと沼野先生について行った。
校長室では、4年前とは変わっていた校長と型通りの挨拶をした。
卒なく挨拶を終え、ぞろぞろと第2会議室に戻ると三人の先生が座って待っていた。
きゃっ、3年生の時副担任だった神田妙子先生の顔が見えた。神田先生も気が付いたらしくわたしと三上君をみるとニコっとした。
「じゃあ実習生の皆さんの指導教諭との顔合わせをします。まず、実習生さんから自己紹介をしてください」
沼野先生が、わたしを指した。心の準備がまだだったけど一応起立をした。
「東京科学教育大学4年、理科教育学科、生物学専攻の中島緑です」
うん。しっかり言えた……と思う。わたしは、礼をすることも忘れなかった。
隣の三上君が立ち上がった。
「大阪教育技術大学4年、数学研究科、数学教育専攻の三上伸二です。よろしくお願いします」
真面目な三上君は、ピシッと直立して礼をした。
次は、オリビアか。
「帝都音楽芸術大学4年、声楽学科、声楽コースの新庄オリビアです。3週間よろしくお願いします」
おっと、オリビアは3週間をつけたのね。
「細かい紹介は、指導教諭とお願いしますね。では、指導教諭のほうから担当する教育実習生の発表をお願いします」
沼野先生は、まず神田先生の方を見て言った。
「はい、2年8組の担任で、理科を担当している神田妙子です。私は、中島さんの指導にあたります。どうぞよろしく」
わ、やった。神田先生が指導教諭だなんて。知っている先生だから少し安心した。
「では次、池田先生お願いします」
「はい、2年7組で担任をしている池田一です。担当は数学。三上君だったね。君の担当です。よろしく」
池田先生は40歳半ばぐらいかな。眼鏡をかけていた。なんか真面目そう。4年前はいなかった先生だ。
「最後は、長壁先生お願いします」
「はい、長壁姫子です。2年1組の担任です。担当は音楽です。新庄オリビアさんの担当です。どうぞよろしくお願いします」
長壁先生……。長髪で童顔の先生だわ。年齢不詳に見えて、実の所意外と40歳ぐらいね。
「お互い紹介も終わったところですが、最後に生徒会担当の先生からお話があります。聞いてくださいね」
そう言うと沼野先生は、第2会議室のドアを開けて廊下で待っていた先生を呼び入れた。
3 実習生のミッションにつづく
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