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4 新しい屋上の主
「中島さん久しぶりね。どう? 緊張してる? 」
神田先生は、4年前と見た目も変わっていない。なんか、先生と生徒に戻ったみたいだった。
「緊張してます。もう疲れてます」
わたしは、正直なところを述べた。
「そうよね、じゃあちょっと休憩しましょうか、おトイレは大丈夫? 」
「あ、トイレに行きたいです」
「いってらっしゃい。待ってるから」
「はい、すみません。ちょっと行ってきます」
トイレに行ってすっきりしたら、ふと屋上に行きたくなった。
生徒のときは、いつもトイレの後は屋上に行っていたからなあ。
条件反射ってやつかな。神田先生は待ってるけど、まあ、休憩中ということで外の空気を吸いに行こう。
わたしは、懐かしの屋上に行った。階段を上りきると屋上へのドアが開いていた。
誰かいるみたいだ。懐かしの屋上。
私の特等席……って誰かいるし。長髪の女子生徒だ。わたしと違って長身でスタイルがいい。あの女子生徒は、さっき2年8組の教室から出てきた子だ。
ん? 2年8組? さっき神田先生は2年8組の担任って言ってなかったっけ。ということは、わたしも8組付きになるわけ?
じゃあ、あの子も実習で受け持つってことかな。
げ、あの子タバコ吸ってる。喫煙で停学じゃない。
神田先生に言ったほうがいいかなあ……。
彼女もわたしに気付いたのか、吸っていたタバコを壁で消してフェンスから外に投げ捨てた。
今のは許せない。タバコを屋上から捨てるなんて。一言言わなききゃ。
わたしは、女子生徒につかつかと近づいた。
「あなた、今ここで喫煙してたでしょ」
「あんた、だれ? 」
女子生徒は言った。『あんた』だって? わたしは先輩だ。
「来週から教育実習をする。中島緑よ。あなた、わたしの聖域でタバコを吸ってたでしょ」
「吸ってねえし。なにかの見間違いじゃ」
女子生徒は、わたしを睨んだ。
否定したな。そうなると「吸った吸ってない」の水掛け論だ。不毛な論争になるな。
「わかった。でも何かを捨てたでしよう。屋上から物を捨てるのはやめてね。下に人がいたら危ないから。それと、この場所はかつてのわたしの特等席だった場所。汚さないでね」
「特等席? ようわからんけど、うち、もう行くわ。教生さん、他の先生には言わんといてな」
女子生徒は、階段の方へ行こうとした。タバコ臭いよ後輩君。
「待って、あなた今タバコ臭いから持ち物検査をされたら停学ね。タバコとライターを出しなさいよ。わたしがあずかる。わたしは、今日は打ち合わせに来ただけだからただの大学生。あなたの先輩にはなるけどね。今日だけは、ココだけの話にしとくから」
女子生徒は、下を向いて片足で床を蹴っていたが、やがて顔を上げて言った。
「ほんま。先生に言わんといてくれる? 」
「うん。だから、タバコとライターを出して」
「わかった。約束やで」
女子生徒は、タバコの箱と100円ライターをポケットから出し私に渡してきた。
「あなた、名前は何て言うの? 」
「金剛さくら」
「金剛さくらさん。来週からよろしくね」
「いや、もうこらえてつか」
讃岐弁で言うところの『もうかんべんしてください』ってことか。
長髪を揺らして階段の方へ行きながら金剛さくらは言ったけど、こらえてほしいのこっちだよ。
でも、懐かしいこの場所。高校生の時は、いつもここで海を見て黄昏ていたなあ。歌いたいけど恥ずかしくて歌えない気持ちをもやもやと抱えていたんだっけ。
来週から怒涛の3週間がはじまるのね。
5 時代は『MOTOR DRIVE』①につづく
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