5 私と独身婚してください!

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5 私と独身婚してください!

「独身のままでいいから、私と結婚してください!」  勇気を出して逆プロポーズしたのだが、政宗(まさむね)さんはポカーンとした埴輪みたいな顔になってしまった…。なので私はもう一度言い直してみることにした。 「日本語がおかしいぞ!? 結婚していないから独身(・・)なんだろーが!」  深夜の一軒家に更に大きくなった政宗さんの叫び声が響く。 「政宗さんの独身待遇は私が守ります! 結婚を勧められなくなるし、これまで通り独身のように自由に暮らせますよ。必要な時は配偶者として防波堤になりますのでお任せください」    私は益々ポカーンした顔になった政宗さんを眺め、『ああイケメンってどんな顔していても美しいのね』と心の中で考えていた。  だがぼんやりとはしていられない、さぁプレゼンの時間だ!。勝たなければ猫のユズとお別れしなくてはならない…、私は脳味噌を総動員し怒涛のプレゼンを開始する。 「結婚=変化だとストレスでしょ、だから生活の擦り合わせをする時間が必要だと思うんです。なので独身婚は半年間のクーリングオフ保証付きです。その後は1年ごとに更新、更新しない場合は何も要求せずに離婚します、後で誓約書も書きますね。あっ、結婚したい人が出来たときは、更新せずに離婚するので事前に報告して下さいね。また『独身婚』から通常の『結婚』へ切り替えも出来ます。ただし『結婚』に切り替えると『独身待遇の保証』が無くなるのでご注意ください。結婚はお互いだけを大切にする相思相愛の始まりですから」  訝しそうな表情をしている政宗さんを尻目にプレゼンを続ける私。すると徐に政宗さんが口を開いた。 「…つまり君が言いたいのはこういうことか?。独身では人生を生き抜くのは困難、未婚リスクを軽減し尚かつ独身の自由さもある結婚=独身婚(どくしんこん)を俺としたいと」 「そう! それです、私が言いたかったのは!」  話をまとめてくれた政宗さんに拍手し、私は猛烈に首を縦に振る。出会ったその日に結婚を申し込むなんて、自分でも図々しくおかしなことを言ってる自覚はある。だが今更後には引けない。 「君は…プレゼンとか苦手なタイプだろ? 日本語の使い方から勉強し直したほうがいいな…」  条件が心に響かなかったのだろうか、政宗さんは困惑したような表情で頭を抱えている。 「ダメ…ですか? 私のメリットは生活拠点が出来ること、そして何より猫のユズと離れなくて済むことなんですけど」  私はいつの間にか膝の上に乗ってきた猫のユズをモフモフしながら、政宗さんをじっと見つめた。 「なるほど独身婚か…。俺も親父や継母(あのおんな)の息のかかった相手とは結婚したくないしな、何より猫のユズを返さなくて済む」  そう呟くと少し考え込むような表情になる政宗さん。
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