6 傷つかないための予防線

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「もう振られたり寝取られたりして傷つくのは嫌だから、政宗さんに恋をしないことに決めたの。恋をしたらきっと愛されたいって思ってしまうから…」 「柚子~っ…!?」  話を聞いていた京子ちゃんの表情が一変し、心配そうに私を覗き込む。 「この間は厳しいこと言ってごめん…、柚子がそこまで傷ついてるなんて思わなくて…」  テーブル越しに身を乗り出すと、私の両肩を掴みユサユサと揺する涙目の京子ちゃん。 「違うよ!? 京子ちゃんのせいじゃないからね」  京子ちゃんのセイなはずがない。むしろいつも私が泣きついて愚痴を聞いてもらって励まされ、感謝しているもの。だが京子ちゃんは責任を感じてしまったようで、綺麗な形の眉がしょんぼりと下がっている。  私は傷つくのが怖くて心を守るために「独身婚」という予防線を張った。高嶺の花の政宗さんを好きになったらきっと傷つく、そんな予感がしたから。それに新しい恋をできるほど心のダメージは回復していない…。だったら最初から恋が無ければいい、そうすればきっと心穏やかに過ごせるはずだから。 「ほら京子ちゃん、ケーキ来たよ! 今日の日替わりはピスタチオだって」 「柚子、このお店のケーキほんと美味しいから食べて」  ピスタチオクリームに季節のフルーツが添えられたタルトケーキがテーブルに運ばれてくると、私達の間からしょんぼりした空気が一瞬で吹き飛んだ。京子ちゃんお勧めのお店は本当に美味しくて、私と京子ちゃんは舌鼓を打ち、お替りまでして満喫した。
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