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リビングにあるキャットタワーで寛ぎながら、猫のユズは高い所から私と政宗さんを見下ろしている。お風呂から上がった政宗さんは暫く半裸でいたが、今はパジャマ姿だ。
「結婚式はやらなくていいですよね?」
「ウェディングドレスを着なくていいのか? 興味ないとか」
「いえ興味はありますけど、独身婚のクーリングオフ期間中ですし…」
地味子とはいえ私も女性だ、ウェディングには人並みに憧れはある。本当はウェディングドレスを着てみたい…。だが独身婚の状態で、あれもこれも欲しがるのは違う気がして…遠慮してしまった。
「じゃあ、『当面は結婚式はやらない、入籍だけしました』という報告でいいか?。事後報告で申し訳ないけど、柚子の両親にきちんと挨拶に行くよ」
私と政宗さんは今、情報交換をして今後の段取りを相談しているところだ。
お互いのことや親族の情報などを把握していないと、いざ両親に紹介された時に困ってしまうから。
「はい。でも、政宗さんのご両親に先に挨拶に行ったほうがいいんじゃないですか?」
政宗さんのお父様は親族経営のグループ会社の社長で、会長がお爺様。お兄さんが一人いて会社を手伝っているそうだ。そして、政宗さんは親族の会社には入らずに商社に勤めていて、自分で稼いでいる。お爺さんやお兄さんとは仲が良いが、お父様とその妻の継母とは相当確執があるみたい…。
政宗さんは私が想像していた以上に良いご家庭の御子息だった。一般人で地味な私は好ましく思われないかもしれない、ご家族から何か言われるのは覚悟しておこう…。
私はそんなことを考えながら、うちの家族の倍はある情報量を次々と頭に入れていく。
「俺のほうは後回しでいいよ。いっそ結婚ハガキだけ送って済ませたいぐらいだ…」
「うちの実家は鹿児島ですよ、遠いですよ」
「いいよ、どんな凄腕の両親が柚子を育てたのか興味があるし」
「至って普通の両親ですよ、何ですか人を珍獣みたいに…」
そう、私と政宗さんは既に入籍して一緒に暮らしている。でもいろいろ一気にあって後回しにしてしまい、私はまだ両親に何も報告していないのだ…。反対されることはないが物凄く驚かれるだろうな~。
「そうだ、結婚写真を撮りに行こう!。来週は予定があるから、再来週でどうだ?」
「えっ!? 結婚写真!?」
「写真がなきゃ、結婚ハガキも出せないだろ。ドレスのブランドとか、何か希望はあるか柚子?」
政宗さんの突然の提案に、私は驚いて聞き返してしまう。ワクワクしたせいか、少しだけ声のトーンが高くなってしまった。
「いえ。あの希望というか、お願いなら一つだけあるんですけど…」
私はおずおずと猫のユズを指差す。
すると政宗さんまだ内容を聞いてないのに「いいぞ」と返事をした。
「えっ!? まだ何も言ってませんよ」
驚く私に、政宗さんは申し訳なさそうな顔で微笑む。
「ごめんな…柚子」
「えっ…!?」
突然に謝られ、私はドキリとしてしまう。
まさか…独身婚のクーリングオフ期間も終えてないのに、離婚してくれ…とかじゃないよね…!?
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