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家に戻りガレージに駐車した車から降りて、政宗さんと荷物を下ろしていたら、ふと背後から視線を感じた。私が道路の反対側を振り返ると、日傘を差した女性が逃げていく後ろ姿が遠目に視界に入った。
栗色のゆるふわパーマな髪に甘めのワンピースの裾が、ふわりと日傘からはためく。
「まさか…美優?」
見覚えがあるその後ろ姿に、私はギクリとして呟く。
「どうかしたのか柚子? 顔が真っ青だぞ」
家の前の路地を呆然と見つめる私を見て、荷物を運んで戻ってきた政宗さんが心配げに声をかける。
「大丈夫です、ちょっと疲れたのかも…」
「いや、大丈夫な顔色じゃないだろ!?」
政宗さんは大慌てで私をお姫様抱っこすると、家の中へと過保護に運んでくれた。
『見間違いよね、まさかね…』
政宗さんと結婚したことはまだ京子ちゃんにしか話してない。専門学校の友達だって知らないのに美優がこの家を知ってるはずないわ…。私は嫌な予感を消し去るように首を左右に何度も振った。
◇◇◇
翌週の週の始めの深夜。リビングで猫のユズを挟んで、私と政宗さんは真剣な表情で向き合っていた。
「一緒に暮らせば猫問題はすべて解決すると思ってたんだけどな…」
「ほんとですよ! こんな重大な問題が残っていたなんて!」
「今夜こそ、ユズと眠るのは私ですよ!」
「最初はグー、ジャンケンポン!」
「ああ、ああああああ…~!」
ジャンケンに負けてしまい、リビングの床にへなへなと座り込む私。
「柚子は弱いしチョロイな」
「おかしいな? ジャンケンこんなに弱くなかったはずなのに…?」
悔しがる私を見て、クツクツと可笑しそうに笑う政宗さん。政宗さんはジャンケンの掛け声の後半を物凄い早口で捲し立てるように言うので、私はつい焦ってペースを狂わされてしまうのだ…。
「やっぱり、一晩交代にしませんか…?」
「却下!、柚子がジャンケンにしようって言い出したんだろ」
「うう~っ、政宗さんって結構大人げないですよね…」
猫のユズを腕に抱いてドヤ顔の政宗さんを、私はジロリと恨めしそうに睨む。『ジャンケンでその晩どっちがユズと寝るか決める』それを提案したのは私だ。だがなぜか私は連続で負けてばかりなのだ…。
「俺が夜遅い日は柚子が猫のユズと先に寝てるだろ、ずるくはないだろ」
そう言いながらなぜか政宗さんはジリジリと間合いを詰めてくる。
「そ、それはカウントに入れないでください!」
一歩また一歩と後ずさった私の背中がリビングの壁に当たった。すると政宗さんは猫のユズを肩に乗せた体勢で、壁ドンしてきたのだ!?。
「敬語なかなか直らないな、どうしたら禅って呼んでくれるのかな俺の奥さんは~」
壁ドンしているのとは逆の手が私の頬を撫で、首から下へと降りて行く。その瞬間、私の体は無意識にピクンと跳ねる。
「だって、それは…」
それ以上、少しでも手が下にいけば胸だ…。そう思うといつもより過剰に意識してしまい顔が真っ赤になった。そして火照るように体温が上がり、私の体が桜色に染まっていく。
だが政宗さんの指は胸の手前のきわどい位置で、反転するように上方向に上がっていった。そして今度は唇を指でなぞり、ムニュっとつまんだのだ。
「今夜から俺の部屋で一緒に寝れば解決するけど、どうする?」
「一緒になんか絶対寝ません!」
俺様な顔でニヤリと笑う政宗さんに、私は悔しそうな真っ赤な顔で叫ぶ。
一緒の部屋で寝たりしたら…ドキドキして一睡もできなくて寝不足で死んじゃうわ…。ただでさえ、最近よく眠れないのに…。
「そうか、じゃ仕方ないな。おやすみ~!」
「待って政宗さん! 今晩だけでもユズを…」
政宗さんはそう言うと、猫のユズを抱っこして自分の寝室に連れていってしまった。そして無情にもドアを閉めてしまったのだ!?。
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