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浮気現場を見せつけられ、泣きたいのも怒りたいのもこっちよ! なのになんで私が責められてるの。責められてる私をどうして忍君は庇ってもくれないの…?
そんな思いで縋るように忍君を見つめると、忍君はフイッと私から視線を逸らした。浮気相手が彼女を責めるのを止めもしない彼を見て、私の心は急速に冷えていった。
「柚子の状況には同情するけど、ごめん…俺が今好きなのは美優だから」
「忍君・・・、それ本気で言ってるの・・・?」
私に背を向けたまま投げかけられた彼の言葉。それを聞いた瞬間、私の心は永久凍土のように冷たく硬く固まってしまった・・・。
俯いて踵を返し部屋を出ようとした瞬間。私に背を向けた忍君の肩越しに、美優の形の良い唇が声を出さずに動いて、ニヤリと笑った。読唇術の心得なんて私にはないけど、「ざまぁ」と言ったのがわかった。
何がいけなかったんだろう…。地味なところ?、エッチが怖くて拒んじゃったところ…?。私は変に気丈な性格で、泣いたり甘えたり頼ったり…が苦手だ。なのに彼の前では出てこなかった涙が、一人になった途端に溢れ出す。
そうか…全部だ、…女として可愛くないから振られたんだ…
惨めに逃げるようにアパートから飛び出す私の耳に、勝ち誇ったようにクスクス笑う美優の声がいつまでも響く。
◇◇◇
彼のアパートを出て、何処をどう歩いたのか覚えていない…。大きなキャリーケースを転がし片手に猫の花子を抱いた私は、放心したように見知らぬ夜の住宅街を彷徨い歩いていた。
そんな時、不意に背後から名前を呼ばれた。
「柚子!?」
振り返ると少し離れた場所に、私の名前を呼ぶ見知らぬ男性の姿が。
「やっぱり柚子だ! やっと見つけた!」
見たこともないほどのイケメンが高揚した表情で、涙目になり私の名前を嬉しそうに呼ぶ。
誰!? こんな美形に会ったなら忘れないはずよ!
記憶を総動員して思い出そうとするが、どうしてもわからない…、完全に初対面のはずだ。とろけそうな優しい声と笑顔で囁かれ、私は思わず赤面してしまう。
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