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3 王子様と地味子が出会っても、ロマンスが始まるとは限らない
「お帰り、柚子!」
「えっと、あの…どちら様で?」
私は戸惑い…言葉に詰まりながら質問した。だがそんな私をよそに、イケメンでエロスな色気駄々洩れの歩く発光物のような男性が、つかつかと私のほうへ歩み寄る。そして、まるでその逞しい腕に飛び込んで来いと言わんばかりに、両手を差し出すように広げた。
誰かにお帰りなんて言われたのは、いつぶりだろう…。まるで心臓を掴まれたように、私は胸がきゅうっと熱くなる。まるでドラマのワンシーンか絵画のような美しい光景に目を奪われ、身じろぎも出来ずに立ち尽くす。
ところが次の瞬間、男性はなぜか低く屈んだ。
「にゃにゃにゃにゃ! にゃ~んっ!」
すると猫の花子は私の腕の中からジャンプして地面に着地し、物凄い勢いで男性が広げた腕の中へと飛び込んだ。
「ユズ~!? 戻ってきてくれたんだな! すごく探したんだぞユズ~!?」
男性は号泣して猫の花子に頬ずりし、手を繋いでクルクル回って再会を喜び合っている。完全に取り残されアウェイな私は、ポカーンと埴輪のような顔になってしまった・・・。
『そうか! 私の名前が猫の名前と一緒なんだ!?、柚子≒猫のユズ、猫の花子は野良猫じゃなくて飼い猫だったんだわ!』
恋愛ドラマの見すぎね恥ずかしい…、自分の名前を呼ばれたと勘違いしてドキッとするなんて。今度は別の意味で恥ずかしくなり赤面する私。
「君がユズを保護してくれてたんだねありがとう!。これ俺の名刺です、お礼は改めてさせて頂きますので、それじゃ俺たちはこれで」
ようやく私の存在に気づいた男性は、猫の花子を腕にしっかりと抱きかかえたままで、丁寧にお礼を言うと踵を返した。
「えっ!? あの…、まって…!」
私は慌てて男性の背中に声をかけるが、男性は競歩選手のようなスピードで見る間に歩き去っていく…。
「花子は私の猫なのに…、私…これで花子とお別れなの…!?」
私はショックでわなわなと震え地面にへたり込んだ。ちょうどその時、スマホの着信音が鳴る。親友の京子ちゃんからだった。
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