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4 やさぐれた地味子は狡い女を目指す
私は今、さっき出会ったばかりの男性の家にいる。
あのまま男性を行かせたら…二度と猫の花子と会えなくなってしまうと思った私は、勢いで車に乗り込んだのだ。
猫の花子の元飼い主の男性は、政宗 禅と名乗った。
車が着いた先は彼の自宅の一軒家で、暗くてよく見えなかったが平屋で庭もかなり広い。都内の一軒家なんて一体いくらするんだろう…。猫の花子はどうやら、お嬢様猫だったようだ!?。
案内されたリビングのソファに座った私の顔に、緊張でダラダラと脂汗が伝う。
自分で自分の行動が信じられない…、何やってるの私…深夜に見知らぬ男性の家に上がるなんて普通じゃないわ…!?。いいのよ!、狡い女を目指す!って決めたじゃない、オドオドしちゃダメよ強気で図々しく振るまわなきゃ!
脳内の善と悪の論争に私が百面相していると、向かいのソファに腰掛けた政宗さんがおもむろに口を開いた。
「俺の猫を保護してくれたことには感謝している、だから十分な謝礼を君に…」
「現在の飼い主は私です! 花子は私の猫です!」
「花子じゃない、この猫の名前はユズだ!」
謝礼を渡し話し合いを終わりにしたい、そんな意図を感じ取った私は、政宗さんのセリフに被せぎみに反論する。
深夜に男女が二人、だがそこには甘い雰囲気は皆無。あるのはバチバチとした愛猫の奪い合い。そして今は話し合いが平行線で暗礁に乗り上げているところだ…。
「ユズ~! おいで~」
私は一際大きな声で猫のユズの名前を呼んだ。すると政宗さんの膝の上にいた猫のユズが、「にゃっ!」と返事をしてピョンと私の膝に飛び乗った。そして膝の上でゴロゴロと喉を鳴らす。
呼び名を変えたって変わらずに私に懐いてくれている。それが嬉しくて私は思わず破顔した。
「なんで俺よりも君に懐いているんだ!? やっとユズと会えたのに!」
政宗さんは、この世の終わりのような悲壮な顔になり、私と膝の上の猫のユズをぷるぷると指差す。
その様子が余りにも必死すぎて、私は吹き出しそうになる。猫が大好きなだけで、きっと悪い人ではないのだろう。
「大丈夫ですよ、猫は半年で元飼い主を忘れたりしませんから」
殺伐とした話し合いの最中にもかかわらず、私は彼に助け舟を出す。私は立ち上がると政宗さんが座る三人掛けのソファーの端に座り直した。すると私の後をついてきた猫のユズは、私と政宗さんの中央にちょこんと鎮座した。
「法的には猫は動産、遺失物として警察に届けを出していない君は飼い主じゃない。でもそうだな…、ここは俺とユズの家だが、猫を返せば半年に一度会いに来るのを許そう」
「嫌です!」
政宗さんの申し出を一刀両断しながら私は焦っていた。
どうしたって私のほうが分が悪い…でも猫のユズと離れたくない…。何か方法はないの?、こんな時、狡い女ならどうするのかしら…?。相手の弱みに付け込むとか?。どうしよう…全然弱みなんてなさそうだわ…
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