4 やさぐれた地味子は狡い女を目指す

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「政宗さんはお金持ちそうで何だって持ってるじゃないですか!、私なんて無職になって住むとこも無くして、彼氏を寝取られたんですよ!」 「君は住むところもなくて困っているのか!?、なら猫を飼う余裕はないだろ…」  いくら考えても何の策も浮かばず、私は気づけばまるで逆ギレのように泣きそうな声を出していた。そんな私を見て、困惑する政宗さん。 「私にはこの()しかいないんです、取り上げられたら生きていけない……」  一瞬、政宗さんが困った顔になって固まる。どうやら泣き落としは有効なようだ。だが、まだこれだけでは弱い。 「まいったな…君とはいくら話しても平行線だ…」  困ったように溜息をつき髪をかき上げる政宗さん。たったそれだけの仕草なのに、その横顔からは色気が駄々洩れだ。  なんなのこの色気駄々洩れのオジサンは!?、私よりは一回りぐらい年上に見えるから30代後半ぐらいだろう。お兄さんという年齢ではないがオジサンというには若々しく美しすぎる。男性にもイケメンにも免疫が少ない私には、もはや眩しすぎて毒でしかない…。   私がそんなことを考えながら悶絶していると、猫のユズがソファーからテーブルの上へ飛び乗った。テーブルの上に山のように積まれた書類。その端を猫のユズが手でちょんちょんすると、バランスを崩した書類が床へと落ちてしまう。落ちた書類を拾い上げた私は、思わず手が止まった。   「うわぁ、凄い量のお見合い写真ですね。おお~! ゴージャスな美人ばかり」  書類だと思ったものは釣り書と見合い写真の山だったのだ。私が驚いた声をあげると、政宗さんはハァ~と溜息をついて写真をゴミ箱に捨ててしまう。 「継母が勝手に送りつけてくるんだ…。年齢的に見合いを断るのが段々難しくなってきてな…」 「結婚自体がしたくないんですか? 独身貴族とか?」  政宗さんの弱みになりそうな物を見つけ、不躾だと思いながらも私は図々しく質問する。 「いや、いずれはしなければならないな。でも独身の自由が奪われるだけの結婚にメリットを感じない、猫のユズがいればいい」 「メリットがあればいいんですか?」  私は頭の中で素早く計算式を組み立てる。  契約婚?、ううん違うわね、それじゃ彼のニーズに合っていないもの。お金持ちで不自由していなくて結婚に魅力を感じていない男性。彼の望みは独身の自由が欲しい+愛猫。そんな彼に合った結婚を高速で考えるのよ!、そうすれば猫のユズとお別れせずにすむわ! 「そんなことより、今は猫のユズの飼い主を決めるほうが大事だろ」  考え込んでいる私をよそに、話題を元に戻す政宗さん。 「あの…私、飼い主問題を解決する方法を思いついちゃいました!」 「聞こうじゃないか 言ってみろ」  名案を思いついた私は思わずドヤ顔になる。そんな私を怪訝そうな顔で覗き込む政宗さん。 「私と独身婚(どくしんこん)してください!」 「はぁ!?」  それは、これまでの自分だったら考えられないような図々しい行動と提案だった。深夜の一軒家に政宗さんの声が響き渡り、整った端正な顔が埴輪のようにポカーンとなる。結婚、独身、という言葉が私の脳内で混ざり合い、気が付くと私は勢いで逆プロポーズを口に出していた。
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