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ドン男、リターンズ
キキキー!!
トラックに轢かれそうな南相馬。
変な関西弁の神様(自称)に言われた通り、【3if】を使いたいと頭の中で考えた。
その瞬間、けたたましいトラックのブレーキ音は消えて静寂の世界へと変わる。
(おっと。考えれるのは10秒間だったな。急がないと。ここは無難に「もしも…)
『その前にスキルの説明をします。1回しか言わないのでしっかりと聞いてください』
誰かの声がした。
(え?)
『私はスキル説明係です。最初にスキルを使う時にだけ頭の中で説明を行います』
(それは助かる……待て! 10秒すぎるぞ!)
『大丈夫です。私の説明が終わるまでは時をカウントしません』
(あ、なら安心だ。ふうー。焦ったぜ)
『【3if】を使えるのは1日に3回だけで』
(え?)
『戻れる時間は3時間前までです』
(は?)
『【3if】は、その場で起きている事だけにしか使えず、関連しない事を考えても無効になります』
(えっと……)
『例えば、トラックに轢き殺されそうになっているのに、(もしも俺が超人で大金持ちならトラックに轢かれても死なない)と考えても、超人にはなれないし大金持ちにもなれません』
(なるほど)
『実行できる【もしも】には限界が有ります。実行できない【もしも】を考えた場合、その【もしも】は無効になり考えれる【もしも】は1つ減るので、あまりにも無茶で奇想天外な【もしも】は考えない事をお勧めします」
(え?)
『実行できない【もしも】を考えた時には頭の中で「無効」とアナウンスします。【もしも】を実行したい時は(決定!)と強く思ってください。これで説明を終わります。時をカウントします』
(あ、もしも、学校帰りにコンビニに行っていれば、このトラックに轢かれない。決定!)
相馬はなるべくシンプルに危険回避する事を選んだ。とりあえず安全だった過去へ戻ればいいのだ。
・・・・・
「腹減ったー。相馬、コンビニでオニギリ食べようぜ」
「あ? えっと……そうだな」
(本当に過去に戻ったのか?)
相馬はコンビニの前に友人と立っていた。
スマホで時刻を確認する。
(確かに30分前くらいだ……やったぜ! 俺はトラックに轢かれて死ぬ事を回避した!)
「相馬、なんでドヤ顔してんだ?」
「あ、いや、何でもない」
「こんなとこでドヤ顔する意味が分かんねえけど」
「いや、ちょっと思い出して」
「まあ、別に良いけどよ」
コンビニでオニギリを買い、コンビニの飲食スペースで食べる相馬。
思いがけず手に入れたスキルの事を考える。
(1日に3つまでって言ってたな。何時から何時なんだ? 普通は日付が変わってから日付が変わるまでだよな? うん。そうしておこう。今日は1つ使ったからあと2つ。日付が変わる直前に死にそうな事が起こる可能性があるから、なるべく1つの【もしも】は残すべきだよな。基本的に1日に使う【もしも】は2つにしておこう。となると、今日使えるのは1つだな)
「じゃあな」
「おう」
友人と別れて家に帰る相馬。
念の為、ドン男に会った場所は迂回して帰る。
途中でパトカーや救急車が走ってきた。
(もしかして、俺の代わりに誰かがあの男にドンされてトラックに轢かれたのか? いや、偶然だろ)
家に帰り晩ご飯を食べた相馬。
気になってネットニュースを見た。
[午後6時半頃、北川市で若い女性がトラックに轢かれる事故がありました。目撃した人によると、女性は歩道を歩いていた時に若い男に背中を押され、車道へ転倒したとの事です。女性は服装や所持品から高校生と思われ、病院に搬送されましたが死亡が確認されました。女性を車道へ押した男は逃走中です]
(……俺とは何の関係もない人かもしれないけど、俺の代わりに死んだのかも、だよな。
もしも、このニュースの現場に俺が居たら、女子高生も俺も無事。ドン男は勝手に転んで頭を打って死ぬ。これでいいか。人を殺そうとする奴なんか死んで当然だろ。よし、【3if】を使いたい)
相馬以外の時は止まり、10秒間のもしもタイムになる。
(もしも、このニュースの現場に俺が居たら、女子高生も俺も無事。ドン男は勝手に転んで頭を打って死ぬ。決定!)
・・・・・
相馬の視界は、あの事故現場に切り替わった。
過去に戻ったのだ。
ガードレールのほうを向いている女子高生をドンしようとしている男が見えた。
ダッシュする相馬。
ドン!
「きやっ!」
「危ない!」
ガードレールから車道へ飛び出しそうな女子高生の身体を、相馬は歩道の方へ引き戻した。
その前をかなりの速度で走っていく大きなトラック。
「えっ?」
「くそっ!」
走って逃げようとしたドン男。
「うわっ!」
ゴン!
ドン男は勝手に転んで歩道のコンクリートで頭を強打した。
起き上がらないドン男。
(このクソ野郎、ザマアだな)
「あ、あの……」
女子高生の身体を抱きしめている相馬。
「あっ! ご、ごめん!」
女子高生を離す相馬。
「あ、いえ、その……私を助けてくれたんですよね?」
「ま、まあ、うん」
「ありがとうございます! 助けてもらえなかったら、私はトラックに轢かれてました」
「う、うん。まあ、そうかもね」
(女子高生の身体、柔らけ〜!)
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