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1,入道雲
亮は一風変わった子供だった。
まず、その容貌。抜けるように白い肌、髪は陽光の下では金髪かと思われるほど明るい茶色で、瞳の色はこれも太陽が空に輝く時は青か緑のように見えた。
母親の芝坂美和もその夫も生粋の日本人で、近い先祖に外人がいるわけではなかった。
突然変異の一種なのだろうかと夫婦は訝しんだが、成長とともに外人のような特徴は薄れていくだろうと予想することで、自らを納得させた。
また亮は、まだ言葉が十分に話せない頃から第6感や予知能力の兆候をうかがわせた。その能力は、主に自然現象に対して発揮された。
中でも天気の急変による雷雨は、空がまだ明るく日差しのあるうちから「雨、ザーザー」「ゴロゴロ鳴る」といった片言で予言した。
的中率がほぼ100%であることから、最初は偶然と軽くみていた美和と夫の剛志も予知能力の可能性を真剣に考えるようになっていった。
「ツバメが低く飛ぶと雨」とか「猫が顔を洗うと雨が降る」といったことわざは、前者がツバメの餌となる虫が羽根に湿気がついて高く飛べなくなるから、後者は猫のヒゲが湿気のセンサーになるからといった科学的な根拠があるのだが、幼い亮になぜ雨が降るとわかるのかと尋ねても、答えることができなかった。
ただ預言者の託宣のように一方的に告げられるので、何か神がかった直感と見做すしかなかった。
亮が6歳の時、幼稚園が夏休みで美和と買い物に行った帰り道、セミがあちこちの木々で夏の鼓膜を震わせて鳴き、ひまわりは競って背を伸ばし、空には夏特有のもくもくとした雲が浮かんでいた。
ふと亮がつないでいた手を離して、雲の上を指さした。
「またあの人がいる。僕のことをじっと見てる」
亮の雷雨に関する予言が突如放たれる時、美和は射すくめられたように体を固くするのだった。
「あの雲の上にいるの? あれは入道雲ね。もくもく湧き上がってる」
「入道って?」
「体の大きいお坊さんのことよ」
「お坊さんって、坊主頭の人?」
「そうだけど……」
「じゃあ入道じゃないよ。あの人は、髪もヒゲもぼうぼうに生えてる」
亮が克明に特徴を説明する、雲の上から見ている人物とは何なのか。息子にあるのは空想癖ではなく確かな予知能力なのだと知っている美和は、慄然とした。しかし、幼稚園児の目線になってさりげなく訊いた。
「その人、雷さまかしら。角が生えてる?」
「ううん、そうじゃなくて、外国の人みたい」
2人が家に帰り着く頃、空は青空が裏返ったように暗くなり、入道雲は黒い怪物と化して街を席巻しようとしていた。
そしてその直後、雷鳴が轟き、それを合図に激しい雨が夏の火照った風景に降り注いだ。
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