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「うーん……。これ、ちゃんとたどり着けるのかな」
段々と細くなっていく獣道をがたごとと揺れながら自家用車を運転している俺は、不安のため息をついた。この地にこうして自分の力で来たことは今日がはじめてだったが、記憶以上に辺鄙なところだと再認識した。うっそうと生い茂り昼間の日差しを遮る樹木が立ち並ぶ道を奥へ奥へと突き進んでいると、日常がどんどん遠のいてどこか別の世界へ行けそうな気がしてくる。実際ここは、俺にとっての「非日常」だった。普段出来ないような楽しいことが飽きるほど出来る、特別な場所だった。――その場所が、もうじきなくなる。
「……よし、何とか着いたみたいだ」
ちょっとしたジャングル地帯を抜けて、開けたところへ出ることが出来た。ここが目的地、祖母が暮らす村だ。家がぽつぽつと立ち並び、それらの大半は屋根がなくなっていたり木材が飛び出たりしていて朽ちていた。周辺には土砂や倒木が散乱しており、到底人が住める場所ではないように思う。そのため人の声や気配などは全くなく、人間よりも近くで大合唱しているセミの方が確実に多いだろう。
「ごめんくださーい」
車を脇に停め、例に漏れず崩れかけの一軒家の扉を控えめにノックし、大声を上げた。インターホンなんてものはないので旧式の在宅確認法である。
「はいはい……あら、もしかして光樹(みつき)くん?」
「はい、光樹です。ご無沙汰しております」
「あらあら……! こんなに大きくなって! ここまで来るの、大変だったでしょう」
「いえ、密林を探検しているような気分になって、楽しかったですよ」
「光樹くんは探検、好きだったものねえ。虫取り網と水筒を持って……。さあ、上がってちょうだい。引っ越し作業に移る前に少しお話したいわ」
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