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音楽の先生、顧問の先生。
わたしの心も音も簡単に見透かしてしまうオトナ。
「マコせんせい」
「なに?」
「先に謝っておきます」
「、」
「今日も多分、逃げるので」
・
・
ひとつ飛ばしで階段を上っていく。
校舎の一番東側、部室とは正反対の場所。
あちこちで練習しているみんなの音が聞こえなくなる場所。
駆け上がる元気はどこにもない。
扇風機を回して、大きめの一歩でゆっくりと昇っていく。
屋上の扉前の踊り場は、入部したときからのわたしの自主練場所だった。
誰もいない場所ではっきりと自分の音を知りたかった。
それくらいしか、わたしには誇れるものがなかった。
音楽が好きだった。
もうずっと、わたしはそれだけで十分だった。
『人にはスランプというものが必ず存在して、セラが陥ってるのはまさにそれだよ』
センパイたちが私の名前を出して、マコ先生と相談して、パートみんながわたしをに怒ることを諦めた。
わたしは誰にも縛られることなく、どこにいったって怒られることがなくなった。
自分勝手でワガママなガキンチョは、音楽の才能だけで誰かに認められていたんだ。
わたしじゃなくて、認められているのは、その実力だけだった。
何も上達してないまま2ヶ月がたった。
中学一年生からはじめたクラリネット、それまで音楽なんて全然関わってこなかった世界だったのに触れてしまったら一瞬だった。
気づけばその世界に、ずるずると引きずられて落ちてしまっていた。
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