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音が綺麗になっていく。
指がもっとずっと上手く回るようになる。
主旋律もハモリも裏取りもどんなテンポでどんな曲調でも、何をしてても楽しかった。
上達する、認められる、褒められて、伸びてく。
わたしはそうやって音楽の世界で息をして5年間の青春を捧げていたのだ。
3年生が出れる最後のコンクールまであと1ヶ月しか無かった。
信じられないほど暑い夏が始まったということは、もうすぐ3年生が引退をするということだった。
センパイたちの最後のコンクール。
86小節目からのクラリネットのソロ。
誰もが欲しかった、最後の見せ場。
オーディションで選ばれたのは、わたしだ。
プレッシャーに弱い私じゃない。
わかっていた話だ、1年生のころからファーストばかり貰っていたしセンパイを差し置いてレッスンの先生に褒められることだってよくある話だった。
この学校の、このパートで、一番だった。
プライドが高いわけでもなく、自惚れている自己中じゃなくても、そんなことは自負していた。
音楽と相性がいいだけだった。
死ぬほど没頭していたおかげで身についた実力だった。
勝ち取るつもりで挑んだオーディションで、本当に勝ち取って、センパイたちは泣いて。
でもセラになら任せられるよ、そうやって背中を押してくれているのに。
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