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「……あっつい、」
屋上の古びた扉の鍵は、コツを掴めば中から簡単に開けることができる。
右のつま先で扉の右端を軽く蹴飛ばしながらドアノブを勢いよくぐるりと左にひねれば閉まってるはずの鍵が解ける。
それを知ってる人ってどれくらいいるのだろう。
この場所で誰にも会ったことがないから、おそらく私しか知らないんだろう。
だから、わたしだけの場所なのだ。
廊下でさえ熱のこもっていた気温は、扉を開いた瞬間に頬を掠める温風でさらに暑くなる。
扇風機が回してくれる風すらぬるくて、顔をしかめた。
クラリネットは直射日光に弱い。
扉を開けた日陰に楽器ケースと譜面、持ってきたものすべてを置いて扉の横の梯子に足をかけた。
つま先が緑の上履きは、学年カラーのおかげで絶妙にダサい。
1個上の先輩は赤だし、1個下の後輩は青。
一番微妙な学年カラーはおそらく卒業するまで文句を言い続けるだろう。
手をかける梯子の鉄も熱かった。
やけどしないように足早に上った。
7月になって梅雨が明けてまだ少ししか経っていないのに、外は毎日30度を超えて蝉が校舎に張り付いていた。
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