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並んだ背中、ふたつ
ベランダの洗濯物を取り込んでいると、ふと眼下に目が留まった。
赤と黒のランドセルをそれぞれ背負った子供がふたり。赤が男の子、黒が女の子だ。
女の子が背負っている黒のランドセルの縁には、薄いピンクの模様が入っている。今の時代のランドセルはおしゃれだなあと、物干し竿からハンガーを外しながら思う。
ふたりの手がきゅっと繋がれる。女の子が、俯き気味の男の子の手を引いているようだ。
思わず、頬が緩んだ。
『泣いてばっかいないで、たまには言い返してやりなよ!』
夕焼け空の下、歩みを進めていくふたつの影を見つめていたら、不意に懐かしい記憶が巡った。
一軒跨いだ隣の家の、気弱で小柄で細っちょの男の子。引っ込み思案な彼は、周囲のからかいの的になりがちで、いつも私が間に入って守った。ひとつ年下の子を守るというのは、当時の私にとって、少し得意になれる誇らしいできごとだった。
私のランドセルは赤で、彼のランドセルは黒だった。眼下の子供たちの背中に覗くそれらは、かつて私たちが背負っていたものとは真逆の色合いだ。けれど、なんとなく過去の自分と彼が重なって見え、懐かしさに胸が温かくなる。
君は、あの頃のことを、今も覚えているだろうか。
「ただいま」
網戸だけ閉めたベランダまで聞こえてきたのは、ちょうど帰宅したらしき夫の声だ。
おかえり、とやや大きめの声をかけた後、洗濯物などそっちのけで、私は夫へ手招きしてみせた。
だいぶ小さくなっているものの、ふたりの背中はまだ見えた。ゆっくりと歩く男の子に、女の子が寄り添って進んでいるからだろう。
向かいの家の窓を西日が派手に照らしつける中、私より頭ひとつ分以上も長身の夫が、なんだなんだとベランダのサンダルに足をつっかける。
「見える? 可愛いよね、……なんか懐かしくて」
私より頭ひとつ分以上小さかった彼は、中学生の間に私の身長を越した。
ことあるごとに涙を浮かべていた、泣き虫の幼馴染――微かに当時の面影を残す夫の顔が、ふわりと綻んだ。
「懐かしいな。あの頃は君に頼りきりだった」
苦笑いを浮かべる夫と目が合い、つい噴き出してしまう。
子供たちの背中はだいぶ小さくなっていて、もうランドセルくらいしか判別できないほどなのに、まだ手を繋いでいる様子はどうしてかきちんと見える。
笑みが零れた途端、つられて笑ったらしい夫が、子供たちを真似るようにして私の指に自分のそれを絡めた。
あの頃とは違う、大きな手のひらと長い指……人生って不思議だ。
あの頃は想像さえできなかった未来が、今、ここにある。
〈了〉
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