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ふーと君は
私、菊池 恵実は彼氏のことが大好きです。
何を言っているんだ!と言われそうだし、実際子供たちにも、
『いい年して…ないわぁ』と言われます。(照
でも、そう言いつつ子供たちは、私のことをしっかり応援してくれてはいます。
『フラれないようにね』なんてよく言われてしまいますが、冗談抜きで私は、楓人君に振られないように、日々(一応)努力しています。
「めぐ」
私を呼ぶ彼の声はほんとに魔法みたいに、何度呼ばれても私の全部がとろけてしまう。
自分の名前がこんなにもきれいな響きであるとは、この年まで思ったことはなかったかも…。
ふうと君は優しいし、私を好きでいてくれてはいる…はず…。
正直自信ない。だって、ほかの人にはとっても愛想いいのに、私にはあんまり笑顔見せてくれなし、私ばっかりやきもち焼いて…。
でも、私のほうが年上だし、あんまり嫉妬したり追いつめるようなことしたらダメかなって思って、普段からなるべく“大人の対応”を心がけてはいます。
「めぐ 今日俺半休なんだけど、飯食い行かない?」
ふうと君のお誘いはいつも突然だ。半休とか始めて聞いたし。
確かに私の予定はふうと君しかないけど、なんか悔しい。
「うーん」予定なんかないくせに、携帯のスケジュールを見てみる。
そんな私を見て、ふうと君は私の正面に立って、視線を合わせてくる。
「なんかあるの?」こういう時のふうと君はなんかかわいい。
「大丈夫そう」結局そう言って携帯を閉じる。
「そっかじゃ、終わったら連絡する」
そういって、私の頭をポンってして玄関に向かう。
その背中を追いかけて玄関についていく。
なんだか急に愛おしさがこみあげてきて、ドアに手を伸ばした彼の、作業服の裾をつかんでしまった。
「ん?」振り向いて不思議そうにするふうと君。
どうしていいかわからなくて、
「あ え っと…あの」
「なに?」
やわらかい彼の声。
見上げたら彼の唇が目に入る。
いつも私の名前を呼んで、時にはキスをくれるその唇に吸い込まれそうになる。
はっ!私何考えてるんだろ。
いや、でも付き合ってるんだし、『行ってらっしゃいのチュー』とか…!
いやいや毎日してないのに、そんなのするわけないじゃん。
「さみしいの?今日半日だよ?」
一瞬でいろいろ考えてる私に、ふうと君はにやりと笑ってそう声をかけてくる。
「い いや うん。いっ 行ってらっしゃい」
そういって、作業着から手を放そうとする。と
「めぐ、言わなきゃわからないよ」
そういってふうと君は私の手を握った。
もう、ほんとに魔法みたい。
気もちがほどけていく。
ちょっと背伸びして、自然とふうと君の唇に自分のを重ねる。
「行ってらっしゃい」そう言って笑うと、
「…っ!」ふうと君の表情が硬くなった。それを見て、しまったと思ったけどもう遅い。
「ご ごめんなさい!」
「…いや じゃお昼ね」
怒ってはいない?後ろ手に私の頭をなでて、ふうと君は玄関を後にした。
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