前髪

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前髪

「あ、楓人君お帰り」 玄関を開けようとしたら、中からもあけられて、 愛奈が出てきた。 「…お、ただいま」 「私友達んち行ってくるから、ママに言っといて」 「お、おう」 「7時までには帰ってくるから」 そう言いながら手を振って走っていった。 若いなぁ。 いや俺も変わらんけど。 愛奈いないなら、風呂入っちゃお。 シャワーを浴びて、脱衣場に出ると 「ただいまぁ」 めぐの声がした。 「おかえりー」 腰にタオルを巻いて、髪を拭きながら、 脱衣場から顔を出す。 めぐは玄関に突っ立ったまま、 じっとこっちを見ている。 「愛奈なら出かけたよ」 そう言っても、まだ見ている。 そのまま脱衣場を出て、 めぐのそばまで行くと 「…っ!」 と顔を真っ赤にする。 いやだから今更だろ。 「あ、も、もう服着て!」 そう言ってやっと動き出しためぐに、 「はいはい」 と言って脱衣場に戻る。 ほんとはちょっと見せつけている。 だって、めぐの反応面白いし、 こういう時って、俺のこと好きなんだなって、 実感できるから。 リビングに行くと、めぐがお茶淹れていた。 「はい」 と手渡された、マグカップを受け取って、 向かいに座る。 「さっきなんで見てたの?」 ちょっと意地悪に聞いてみる。 「だって、裸だったから…。」 でしょうね。 答えはわかってた。 「…あと」 少しの沈黙の後、めぐがぽそっと言った。 「昼間の前髪おろしてるのもいいけど、さっきのあげてるのもなんかよかったから…。」 思わず吹きそうになる。 「今日、商店街で見かけたんだよね、配達中のふーと君。」 え? 「声かけてくれたらよかったのに…。」 「だって、配達中だったから…」 何に遠慮してるんだよ。(笑) 「どっちの前髪が好き?」 首を振って、前髪をバサッとおろしてみる。 しばらくうつむいていたから、 「見なきゃわかんないでしょ?」 と言って顎をつかんで上を向かせる。 すると— 真っ赤な顔で 「ど、どっちも好き…。」 と言った。 …!なんだよ、 俺も、てれんじゃんこれ! あまりにも恥ずかしかったから、 すぐに顎から手を放す。 そうするとめぐは 「あっ…」 と小さく声を出す。 名残惜しそうに俺を見つめて 「好き」 ともう一回つぶやく。 俺はもっと恥ずかしくなって、 前髪をガシガシとする。
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