もと旦那

1/1

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ

もと旦那

配送途中で、めぐの元旦那の家の近くを通る。 めぐと出会った場所ではあるが、あまりいい気のしない場所だ。 もと旦那の彼女の勤務先にも、まだ配達にはいくけど、 彼女は奥にいるしあまり見ることもない。 信号待ちをしているとき、もと旦那の車が信号の向こう側で、 同じように信号待ちをしているのが見えた。 彼はどんな気持ちでいるんだろうか? めぐがいなくなって、彼女と自由に会えてうれしく思っているんだろうか? でも、彼女はまだにいる。 小口商店(もと旦那の実家)を手伝っていないんだろう。 だとしたら、店番や事務作業がいなくなったあの店はどうなっているんだろう? 何より、あんなにいつもにこにこしていためぐがいなくなって、 火が消えたような気持になっていないだろうか? 俺にはあの店はなんだか色あせて見えてしまう。 動き出した車、すれ違う俺たち。 もと旦那は俺には気づいてないようだ。 なぁ。あんたはめぐとの生活がずっと続くとおもってたのかよ? めぐは言っていた。 『再構築もしようとしたし、子供たちのために我慢しなきゃかなって思った』 でも結局もと旦那は、めぐにうそをつき続けて、  彼女もめぐも両方とうまくやっていた…気でいた。 めぐはずっと思ってた。 『この人と別れても今更どう生きていけばいいのか?』 知らない間に狭い世界に縛られて、未来への不安しかなかった。 だけど、そこに俺が現れたんだよ。 残念だったな。めぐはそんなに器用な女じゃない。 他の女を愛している男をいつまでも好きでいられるほど強くもない。 いつまでも好きでもない男の言うこと聞いて我慢できるほど、 できた女じゃなかったんだよ。 女に理想ばっか見やがって、めぐにヤなことばっか押し付けやかがって! 小さな思いがいらだちになって膨らんでいく。もう済んだことなのに…。 ♪ピロロン 携帯の音に現実に引き戻される 車を停めて画面をスワイプする 『楓人君?お仕事中にごめん 大丈夫?』 ちょっと弾んだの声。 思わず自然と笑顔になる。 「大丈夫だよ、どうしたの?」 『今日さ、愛奈が試験終わりだし外食しようと思うんだけど、楓人君どうする?と思って…』 「いいね。俺も行きたい」 『よかった。じゃ終わったらうちよってくれる?』 ほんとに嬉しそうだな。 『ごめんね、こんなことで電話して』 「いいよ。」 『なんか … 声…聴きたくて』 かわいいこと言うね。 思わず笑ってしまう。 『じゃ、じゃあ今夜ね』 照れ隠しなのか慌てて電話を切ろうとする。 「めぐ」 『ん?』 「大好きだよ」 『…っ!』めぐが息をのむのがわかる。 自分でもなんで急に言ったのか、 沸き上がってしまった言葉に鼓動が早くなる。 『あ ありがとう…』 「ん じゃまたね」 そう言って電話を切った後も、告白した直後くらいドキドキして、 めぐのことばかりが思い出される。 「俺 やばいな…」 自嘲したように吐き捨てる独り言。 もと旦那が走り去ったであろう後方を少し見て、 また車を走らせる。 はやくめぐにあいたい…と思う。  
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加