スタンド・バイ・ミー

序章

「そういえば。お母さん五十歳の誕生日おめでとう！」

長女の綾音は、朝一番から笑みを含んだ意味深な表情を浮かべてそう言った。

「あー嫌だ。それ、絶対笑っているでしょ。もう五十だよ。おめでとうでも何でもないから･･････」

私は本日、五十歳の誕生日を迎えた。

「お母さん、半世紀生きたってことだよね」

「ちょっと、半世紀って･･････なんだか歴史年表でも読み上げるみたいな言い方やめてよね」

娘の痛い突っ込みに苦笑いを浮かべる私に、更に追い打ちをかけるかのようにニヤニヤと笑う私の夫。

私は夫を横目に大きなため息を一つ零した。

――五十歳か。戦国時代の人だったら寿命を迎える頃だろうか。私はあとどのくらい生きることができるのだろう

その時、テレビの言葉が私の耳に留まった。『友達を作るのならば五十歳までに作れなければその後は難しいでしょう』

私の心臓の鼓動がドキリと音をたてた。

今の私には友達と呼べる人は、一人もいない･･････

仕事、家事、育児に必死だった私･･････今思えば･･････つまらない人生だったのかもしれない･･････

テレビを横目に口角を上げかぶりを振る私は、思わず自嘲した。

その時、ふと色鮮やかな光景が、脳裏をよぎった。

その日休みだった私は、何かに引かれるように自宅を後にした。