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懐かしいあの頃
私は、いつもだったら足の向かない実家へ、数年ぶりかの里帰りをしていた。
久しぶりに帰った故郷の地。
一人散策してまわる私は懐かしいあの頃に想いを馳せた。
見るもの、聞こえる音、匂いまでもが懐かしく感じられた。
「わぁーなんて心地いい風・・・・・・」
樹齢六百年になる銀杏の巨木は見上げる程大きくて。
それは、昔から変わることのない圧倒的な存在感。
まるで私の帰りを待っていてくれたかのように、その場に佇んでいた。
それは天高く枝葉を伸ばし、夏の蒼い空に眩しいほど映える深緑の銀杏の葉。
生い茂った葉は、夏の強い日差しを遮り大きな影をつくると、傍の河原から吹き抜ける風にそよそよと葉擦れを響かせている。
私は目を閉じると、風と戯れる木の葉に耳をそばだてた。
すると何処からか楽しげな子供たちのはしゃぎ声が、風に乗って私の耳まで届いてくるようだった。
振り返ると幼き頃の思い出が色鮮やかに蘇ってきた。
その光景に、私は思わず目を見開いた。
お日さまみたいな笑顔の子供たちが、キャッキャッと声を上げながら銀杏の木の下を駆け回る。
童心に帰った私は、気づけばあの頃のように両手を広げ駆け出していた。
「えっこちゃん、行こう!」
突如私の目の前に現れたのは、子供の頃の友達『まさえちゃん』だった。
まさえちゃんは目を丸くして驚く私に、そっと手を差し伸べた。
その瞬間、私は嬉しさに頬を朱に染め彼女の手をとった。
私たちは見つめ合い何かの合図のように「うん」と頷くと共に駆け出した。
あの頃、幼き瞳に映った世界は、切ないくらい美しく儚く尊い世界――
それは心躍る、冒険の世界だった――
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