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足を踏み出して空気が変わったと思った時には目の前に火の玉が。
「ちょ、あっぶな!?」
すんでのところで斬り伏せた。火球の残骸が代わりに自然を消滅させる。
いやいや、警戒していたとはいえ初手で必殺とかヤバくない!?
『相当気が立っているみたいだな』
「だね。その割には死者がほとんど出ていないのも不思議なんだけど」
『大方弱者をいたぶる趣味はないとかだろ?』
「なのかなぁ」
ともかく火の玉を何度も飛ばしてくるなんてことはなくて一安心。
分かっていれば防ぐのもそんなに難しくないけどさ、まず姿を見せてもらうところからね。
古龍は一応話の通じる相手と思っているんだけど。
『なによなによ!まだワタシの邪魔をするつもり!?』
と、余裕ぶって歩いていたら今度は火球が雨の如く降ってきた。
え、ちょっと。僕らは全然平気だけど環境破壊とかちゃんと考えてます?
土地が死んだら古龍がいてもいなくても一緒なわけで。大災害レベルの相手を何とかしてくれと頼んできたのはこの土地を守りたいからで。
「邪魔をする気なんてないけど今はすっごく迷惑なんだよっ!」
『へへっ。腕が鳴るぜ』
楽しんでいる場合じゃないってばリル。1つ残らず消滅させなきゃなんだよ?
って、そうだ。相殺しようなんて考える必要なんてなかった。この土地ごとシールドを掛けちゃえばいいんだ。
「ちょっと範囲が広い、けどっ!」
『フッ。相変わらず馬鹿みてぇな魔力だこと』
「うるさいよっ。明日のご飯抜きにするからね!」
全身から一気に力を吸い取られていく感覚はいつまで経っても慣れやしない。
リルにはこの辛さが分からないかな。分からないんだろうなぁ。
数秒間耐え抜いて深呼吸。うん、焦げ臭さは一切なくて緑の良い香り。
『なによっ!?なんでなの!?』
「なんでと言われましても、ねぇ?」
『そんじょそこらの雑魚と一緒にするな』
『うるさいうるさいうるさいっ!』
そんなに叫ばなくてもよくない?自覚ないかもしれないけど、ちょっとした叫びで大地が揺れるんだからね?
しかしまぁずいぶんと若々しい古龍さんだね。
『とりあえず落ち着け』
『いったぁ──』
ガリッとえぐる勢いで古龍の口を塞ぐリル。とっくに戦闘モードです。
ま、とりあえず咆哮と火の玉はいったん止まってくれるでしょう。
「ごめんね。色々と納得いかないだろうけど僕たちはキミを退治しに来たわけじゃないんだ」
『!?』
「うん。戦うつもりなんてさらさらないよ。キミが何故ここに来て人々を寄せ付けないようにしているのか、その理由を聞きにきたんだ」
『!?!?』
疑問が増える一方だろうけど1つ答えられるとしたら言葉は理解できますよと。
だって古龍は賢いじゃん?明確に意志を持ってるじゃん?問答無用で戦う前に交渉くらいしておこうよ。
「リル。いいよ、離してあげて」
『むむ。まだまだこれからだぞ?』
「言うことを聞けない子は一週間おやつ抜き」
『くっ、卑怯な』
とにもかくにも大人しく僕の隣に戻って来るリル。
ね?武力行使の前の話し合いはすごく大事。
『え、えぇと』
「疑問はたくさんあるだろうけどとりあえず一戦交えるのはいったんなしね。全力を出すなんてできればしたくないし、無事では済まないよ?」
『わ、分かったわ』
うんうん。聞き分けの良い子は大好きだよ。
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