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1.遺書
1.遺書
文子へ
私は1945年8月14日に出撃します。
19歳で未亡人にしてしまうことを許してください。
文子には夫らしいことは何もしてあげられなかった。
新婚旅行もなかった。二人で出かけた思い出もなかった。
慌ただしく出兵して、何も残してあげられなかったことを後悔しています。
文子は私に心配させないように子供ができたことを黙っていたのですね。
子供が生まれたら、女の子なら幸子、男の子なら幸男という名前にしてください。
幸せになってほしいから。
戦争は長くないと思います。
戦後は、物資が高騰し、配給も滞り、暮らしは大変になると思う。
国土が荒廃し、不衛生な環境と海外からの復員兵・引揚者たちによって、伝染病が流行るかもしれない。
伝染病には特に注意してください。
文子は頼る家族もいないので、心配しています。
文子には辛い生活だと思うけど、子供の笑顔が文子に生きがいを与えてくれる事を祈ります。
戦後の荒廃した社会を幼子と生きて行くのは大変だと思う。
文子はまだ若いのだから、縁があれば再婚してください。
出撃しても逃げ帰り、卑怯者と言われても、文子を守りたいと思うこともあります。
しかし、B-29が襲来し各地を爆撃して、毎日数万人以上の方が亡くなっています。
たくさんの同朋も亡くなりました。逃げ出すわけにはいかないのです。
戦死するまで、出撃するのが宿命なのです。
私は、文子のため、生まれてくる子供のため出撃し自分の本分を尽くすつもりです。
私は雲の上からいつも二人を見守っています。
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