雨催い

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『若い刑事さんよ、あんたこの辺りの出じゃねえな、関東なら大概真っ赤ちんで通じる。甲羅が真っ赤ででっけい鋏ぶら提げて何でも喰らう獰猛なザリガニだよ』  若い刑事は真っ赤ちんを知らないことで田舎もんと思われたのが悔しいようでした。一面の田んぼは黄金色です。落水直前です。百姓も稲刈りが始まる前にこの事件の落着を望んでいるでしょう。  五町ほどある田んぼの先には山と言うには低い、丘と言うには少し高さがある森が続いています。森に流れる小川が田園の真ん中に流れ、容易く水を取り込める豊かな農地です。こんなのどかな村で子供が死んだのですから大騒ぎとなるのは当然でしょう。村民は東京の身代金誘拐事件に感化されています。若い刑事もその視点が邪魔して事件の全容が絞れないのでしょう。棒切れで田んぼの上澄みを揺らすと煙幕のように土が色となり舞い上がりました。 『お前のアパートの窓はあそこだな』 『ああ、あそこから坊主を見ていた。魚籠さえ空けに行かなきゃ助かったかもしれねえ』 『お前があの子に声を掛けた時夕立はどの辺りだ?』  男は畔を歩き立ち止まりました。 『この辺りだと思う』  男は自宅アパートの窓を見て言った。 『夕立はどれくらいの速さだった?』  男は手錠で自由が利きません。それでも小走りで向かって来ました。 『ゴーッ ゴーッ』と笑いながら若い刑事目掛けて走ります。若い刑事は飛びのいて男の接近を躱しました。 『お前、ふざけると痛い目に合わすぞ』  若い刑事が怒るのを大笑いして喜んでいます。若い刑事は実力を見透かされ、馬鹿にされ始めたのでしょう。  
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