雨催い

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「私が気付いたときには既にうちの店の屋根を叩いていました。急いで表に出ましたが既に夕立はベンチを叩いていました。家内は夕立の中に飛び込みましたがすぐに雨に叩かれる痛みで倒れました。私も痛みを堪えながら家内を引き摺り出して店に飛び込みました」 「痛いと言うとどれくらいですか?」 「痛いと言うより熱いと表現した方が正しいかもしれません。叔父も傘を差して真っ黒い夕立の中に入りましたが傘は潰れ叔父は命からがら逃げ出して来ました」  主人の熱いと言う例えが気になりました。 「旦那さん、奥さんが」  中から小僧が呼びに来た。主人は心配顔で戻った。夫人が貧血で倒れたようですが持病故問題ありませんでした。代わりに叔父を呼んでくれました。さっきの小僧が盆に麦茶を載せてベンチに置いて行きました。 「傘が萎むほどの強い降りだとお聞きしました」 「ああ、こんな夕立は初めてだ。助けられんかった」 「ずっとこの辺りにお住まいでしょうか?」 「ああ、ずっとじゃ」 「変わりましたか?」 「ああ、変わったような変わらんような。あんた刑事さんかね、ひとつ訊きたい」 「はい、でもこの辺りに土地勘はありませんが」 「さっき誠を見て来たそうだね、本当に誠だったかね?」  私は叔父が何を言いたいのか分かりませんでした。 「と言いますと?」 「俺の兄が空襲で死んだからさ、誠が夕立の中で火傷したと言うからおかしいと思ってな」 「おなたのお兄さんが空襲で?」
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