雨催い

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「ああ、そこの自動車整備工場があるだろ、昔は軍需品の工場だった。もっと広くてな、陸軍のトラックが週に二度三度と荷物を取りに来ていた」 「その工場が爆撃されたんですね」 「ああ、うちの店もとばっちりだ、骨組みが太いから家の形は残った。他は全部燃えてしまった」 「村の方は?」 「警報が出ていたからな、防空壕に避難していた」 「お兄さんは?」 「兄はザリガニ釣をしていた。ここから戻るように大声で叫んだ。このベンチがあるところまで来てUターンした。『あっ魚籠』そう叫んでな。戻れ戻れと大声で叫んだが空が真っ黒になり俺は豪に連れて行かれた」 「それでお兄さんは?」 「あの溜池に浮いていた。背中から太腿まで真っ黒になってな」  叔父の兄が空襲で死んでいた。それはまあ珍しい事ではない。しかしこの事件の被害者と事件前の行動も火傷による死因も同じである。そして一番驚いたのは魚籠を取りに戻ったことである。 「妙なことを伺いますがお兄さんがザリガニ釣をしていたのはどの辺りですか?」  叔父は指差した。 「誠と同じところさ、溜池があるからあそこにはでっかい真っ赤ちんが釣れるんだ」  私は言葉に詰まりました。そんな偶然があるでしょうか。 「魚籠は、魚籠はどうです?」 「古い鍋を細工して作ったもんだ。うちの親父がこさえた。鍋に小さな穴を開けて針金通して、その針金に細い針金を螺旋に巻いたもんだ。誠は小学校に上がるとザリガニ釣をしたいと俺にせがんだ。針金は錆びてボロボロだから俺が交換してやった。鍋は兄貴が使っていたのと同じさ。こんなでっかい真っ赤ちんが入る、鍋の底と擦れると金属音がするんだ。真っ赤ちんの甲羅は赤(銅)だと兄が自慢していた」    
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