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私は署に戻りました。遺留品の竹竿と魚籠を見ました。魚籠は叔父が言っていた通り中型のブリキの鍋でした。魚籠は生臭い。
「魚籠の底に残っている臭いの正体、蛙の皮を剥いたもんです、ザリガニ釣にはよく使いますよ」
担当が鼻をつまんで言った。取調室では相変わらず富岡刑事が待田の落としに余念がありません。
「何処で焼いたんだ?」
「俺じゃねえって、どうして信用してくれねえんだ。そもそも五分足らずであんなことできっこねえ」
「ほう、そうか、五分で出来れば認めるんだな?」
「あんたに言っても話にならねえ。年配の刑事に替えてくれよ」
富岡は待田以外の線は思いつかないようです。確かにあの現場からして他には浮かばないでしょう。ですが夕立の中で火傷と言う死因が混乱させています。首を絞めた痕跡もない、刃物で刺した痕跡もない。富岡刑事は夕立が去った後の三分から四分の間に焼き殺した証拠を探し続けています。
「佐々木さんもふら付いてないで協力してくださいよ。身代金誘拐、それは未遂ですが殺人は現行犯に近い」
「あの火傷は藁や薪で焼いたものじゃありません。強い熱波、例えば爆弾が破裂した、そんな一気で高温による火傷です。待田にそこまで知恵が回るでしょうか」
「燠の上に載せればどうです。三分あればあれぐらいにはなる」
ゼロじゃないが時間が足りない。
「燠にするにはかなりの時間が掛かります。予めどこかで焚火していたのでしょうか?」
私はその線を諦めさせるつもりで言ったのですが富岡は掌を叩いて『そうだ、その線だ』と聞き込みに出掛けました。私も引っ張り出され焚火の目撃者捜しに隣町まで歩く羽目になりました。
「焚火じゃなくても煙を見ませんでしたか」
必死に聞き込む富岡が哀れにも見えましたが、犯人捜しに躍起になるのは悪い事ではないと言い聞かせ深夜まで付き合いました。辺りはほとんど百姓ですからあちこち焚火が確認されました。しかし燠が残るほどの焚火は確認出来ませんでした。
「明日は隣村の西側を責めましょう」
富岡は早朝の待ち合わせを私に言い付けて本庁に戻りました。
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