70人が本棚に入れています
本棚に追加
***
待てど暮らせど、文は来ない。
その日、空を見上げると小雨が降り始めていました。
じっとりとした暑さの中。
これから更に、この夕立は酷くなるでしょう。
中将様のお心も、この夕立と同じだったのでしょうか。
ほんの一時の、激しい恋情。
通り過ぎれば、何事も無かったかのように。
「姫様!」
山吹がひと目を気にしながら私の元にやってきました。私はけだるげに山吹の方を見ます。
「何、山吹。私、気分が優れないの…」
「時間がありません、こちらへ!!」
え…?
山吹が焦る理由が分かりません。私は眉をひそめました。
「山吹、何用なの、」
「かの君がいらしてるのです…!!」
かの、君?
…まさか、中将様が!?
「山吹、」
「こちらです!私が外で番を致しますから、どうか姫様…!!」
山吹に言われるがまま、私は中将様のいらっしゃる塗籠に案内されました。
妻戸を開けると、あぁ、ああ…!!!
「中将、さま、」
そこには、雨に濡れた中将様がいらっしゃったのです。
最初のコメントを投稿しよう!