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中将様は私を見るなり勢いよく抱きしめてきました。私の目からは涙が溢れます。
「いけません中将様、おやめになって…!私はもう、もうっ…」
「貴方にこれきりだと言われ、我慢しようとしたっ…!」
中将様は私の体を掻き抱いて、苦しそうに自分の気持ちを吐露しました。こんなことをされては、中将様の薫りが、声が、体の熱が、私の中から消えません。
「でも駄目で、最後にどうしてもひと目、姫に会いたくて、こうして夕立に紛れて来たのです。私から逃げようとなさるとは、酷いお方だ…!」
中将様は、こう言って私に激しい口付けをしました。そして、袴の帯を解きます。
「だめ、中将様いけません…!私も中将様にお会いしとうございました…でも、それ以上のことはならぬのです…!!
中将様、どうか…」
こうして会いに来てくださっただけでも、私は幸せなのだから。
入内すると分かっていながら、他の男と体を重ねるなど、畏れ多きこと。知られれば中将様はただでは済まされないのに。
「…姫は、私のことがお嫌いですか?」
中将様が、口付けしそうな距離で私に囁く。
…そんなことをお尋ねになるなんて。
「酷い方…!!」
私が涙ながらに言うと、中将様は私の着物をはらりと肩から落として、晒された皮膚に唇を這わせました。
「何も、ご案じ召されるな。
…この激しい雨音が全てを掻き消し、その雨粒が全てを洗い流してくれる。
故に、今だけは…」
ますます雨足が強くなり雷が鳴り響く中、私達は今までに無いほどお互いを強く求めました。
もう、これきり。
この雨が、上がるまでの恋。
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