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「離して…!だれかっ、」
「しっ。手荒なことはしませんから。貴方は二の姫?」
殿方は私の耳元で囁きます。吐息が耳に掛かり、それだけで震えてしまいそう。殿方の香の薫りが私の全てを包み込むようで、私の羞恥心を煽ります。
なれど、私だってやられっ放しというわけにはいきません。勝気な私の性格がそれを許しません。
「人にあれこれお尋ねになる前にご自分が名乗るのが筋でしょう。無礼者っ。」
「これは失礼。私は内大臣が嫡男、皆には涼の中将と呼ばれている者です。」
内大臣の嫡男…!間違いない、この方が皆の噂する内大臣家の美丈夫だわ。
「貴方は?」
涼の中将様は楽しそうにお尋ねになられます。私はふっと顔を背けました。
「…残念ねっ、二の姫は私の姉よ。」
「では貴方は三の姫様か。」
中将様はこういうと私を抱き締めたまま、ゆっくりとその場に座りました。抜け出そうにも抜け出せません。私が藻掻こうとしても、中将様の雄々しい力がそれを許さないのです。
中将様は私の指と自身の指を絡めました。
「入内する我が妹の不安の種である左大臣家の二の姫様を一目見てやろうと思い忍び込んだのですが、まさか三の姫様にお目にかかれるとは。」
中将様の言葉を私は鼻で笑ってみせました。しかし体の震えは止まりません。
「偵察にいらっしゃるなんて嫌な方。姉上にこのような狼藉を働けば女房がやってきて、すぐ父上の知るところになるわ。」
「それは恐ろしい。お会いできたのが三の姫様で本当に良かった。」
全く恐ろしいなんて思っていなさげな様子で、中将様は私の顔を覗き込みました。
「知らなかったな。左大臣がこんなにも可愛くて生意気な姫君を隠し持っていらっしゃるとは。」
可愛くて、生意気。
その言葉に胸がほんの少し跳ねます。
「っ、生意気とは失礼な。」
「おや、気に触りましたか。…でもまあ、」
中将様は私の髪を一筋掬って、自らの唇に寄せました。
「その方が、好ましい男もいるんですよ。」
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