夕立の君

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口付けを、受け入れてしまった。 まるで、自分が自分でなくなっていくような感覚です。今まで眠っていた私の“女”の部分を中将様の手で暴かれていくような… 熱く溶けるような口付けをしばらく交わした後、中将様が私の袴に手をかけました。 私は「待って。」と中将様を見上げます。 「一夜限りの相手にされてしまうなんて不本意だわ。」 「遊ばれているとお思いか?」 「遊びではないという確証がないもの。」 私達は、政敵。 それは貴方も分かっておいでのはず。 ちょうど奥から物音がしてきました。中将様は音のした方に視線を向けます。 私は中将様の頬に触れました。 「ふふ、人が来る前にお帰りにならないと。もし本当に私が欲しいなら、それをお示し下さいませ。」 「…承知した。」 中将様は挑発的に笑うと、私の耳に髪をかけます。そして、もう一度口付けしました。 「必ず捕まえてみせる。貴方もこれで逃げ切ったと思われますな。」 中将様が立ち去られた後、私は自分の体を抱きしめました。 …薫りが、まだ私の中に残っている。 あれこれと言い返しはしたものの、本当は凄く緊張していました。だって殿方とこんなに言葉を交わすことさえ初めてで…。 まだ口付けの感触が残っているような気がして、そっと指先で唇に触れました。 ああ、体が熱いわ。 捕まえてみせる、ですって。 捕まえられたら私、どうなってしまうのかしら。
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