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「いいよ」
「あの、日中で…えっと…午後に行くけどすぐに帰ってくるから」
やましいことは何一つしていない。
松堂君はただの幼馴染で何もないのだけど、異性ということもあるからもちろん夫である楓君に許可を取るのは当然だ。
早口になったのは、この針を刺すような空気感のせいだ。
楓君はすっと姿勢を正すように私に体を向け真っ直ぐに見つめる。
「そういう約束だったから。沖縄旅行の後にしてって言ったのは俺だし」
「…うん。でもすぐに帰ってくるよ。だって松堂君が…―っ」
彼から視線を逸らし自分の足元が視界に入った途端、揺れた体に小さく悲鳴を上げた。
「楓君…?」
視界が揺れたのが彼に抱きしめられているからだと窮屈になった体と耳に掛かる吐息でわかった。
「そいつの名前呼ばないでくれない?」
「…え、」
強く抱きしめられると混乱した脳内は更に混乱の渦に飲み込まれ思考が停止する。
「ご飯食べよう。冷める前に」
うん、と答えると私を抱きしめる腕が離れた。
せっかくのクリームシチューを味わって食べることが出来なかったのは、彼のせいだ。
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