5.ルーカス

1/1

131人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ

5.ルーカス

 買い取った執事――ルーカスは非常に優秀だった。  命じた仕事は忠実に、間違いなく遂行した。  執事のいち業務として……身体すらも簡単に受け入れた。  しかし主人に対して柔順過ぎる執事を育成するにあたり、非人道的な何かが行われているのは一目瞭然だった。  ルーカスを抱けば、身体は気持ちよさそうに乱れるが、心が凪いているのは見ればわかる。  例えば……幼い下心で名付けた彼の名前を「ルカ」と呼んだとしても……何の感情も動かない。  生理的な欲求は一時的に満たされたとしても、虚しい気持ちが後からやってくる。  Subの「執事」とはこういう存在だ、とわかっているつもりでいたが、やり切れない気持ちは消えなかった。  できるなら彼にも自由に生きてほしいが、感情も見せない人形のようなSubが、後ろ盾もなしに生きていけるとは思えない。  もしかするとルカも、同じような凪いた表情で、どこかで誰かに抱かれているのだろうか……  考えれば考えるほど虚しくなるばかりで、何もかも忘れるほどに勉強に打ち込んだ。  執事のルーカスを抱くのはやめた。  家のことをすべて任せている彼の、執事としての家事能力は完璧だ。  もしも彼の本心が望むなら、うちを出て自由に働くことだってできるのに。  そんな潜在意識を常に持ちながら、ジャンは医療分野に進み、最終的に脳科学を専攻した。  昼夜も忘れ、研究の目的すらも忘れるほどに没頭するうち、気が付けば脳科学分野の研究者として一目置かれる存在となっていた。  そんな彼を、国家最高峰の研究機関が放っておくはずがない。  脳科学分野の第一人者となったジャンが高待遇の研究員として招かれたのは――かつて一度だけ来たことがある、あの施設だった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加