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6.研究員として
またここに来るなんて――――
降って湧いたような施設からの誘いを、ジャンは二つ返事で引き受けた。
守秘義務に関する書類を山ほど書かされたあと、ようやく目にした施設の実態に言葉を失った。
しかし……現実問題として、支配階級の者たちの多くにとって、従順な執事としてSubを買い取ることは昔から続く習慣である。
彼らはなんの疑いもなくそれが当然のことだと考えているし、きっと自分もルカのことがなければ何の疑問も持たなかったに違いない。
それでもいち研究員でしかない今はとにかく、自分にできる仕事をするだけだ。
そう自分に言い聞かせ、施設での立場を築き上げるためさらに研究に没頭した。
そんなある日、ひとりのSubが返品されてきた。
心身ともにボロボロになって返品されてくるSubは、敷地内の一番遠い、まるで刑務所のようは病棟に収容される。
彼らはやがて為す術もなく衰弱していくか、運良く回復してもまともな買い手はいないだろう。
そんな彼らのことが気にならないわけではないが、きっと見てしまうと情が湧いて辛くなるだけだ。
何もできない自分の無力さを痛感する。
だから普段は見て見ぬ振りをしていた。
それなのに、今日は何故だか胸騒ぎがして……例のSubに近付いた。
焦点が合っていない目は虚ろだった。
目を逸らすことができずに引き寄せられて、合うはずのない目が合ったような気がした瞬間、ヒュッと心臓が止まったような心地がした。
見覚えのあるハニーブロンドと、同じ色のあの瞳…………
「君は……ルカ…………だね…………?」
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