6.研究員として

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 自分は一体どうしたいのか。  全く考えていなかったし、どうするべきかもわからない。  それでも彼を、このまま施設に任せておいておくわけにはいかない確信があった。  何もできない無力な自分?それがなんだ。  居ても立っても居られなくて、自分にできることを無理矢理絞り出して、尤もらしい適当な実験をでっち上げた。  施設としても彼の処遇は持て余していたようで、実験の被験体として彼に関する権利を得ることができた。  できることなら彼をモノのように扱いたくはなかったが……なりふりなんて構っていられなかった。  それからのジャンは、表向きは施設のために研究をしながらルカを治療し、世話をした。  埋め込まれた制御チップが忌々しくて、外科的に取り除くことはさすがに難しいが、どうにか無効化できないかとコッソリと試行錯誤してみたこともある。  それに、少しでも彼のようなSubを減らす方法も探りたかった。  その甲斐あって、ルカの身体はゆっくりと回復した。    しかし感情は閉ざされたまま、相変わらず物言わぬ人形のようだった。  それでもいつか、また彼と笑って話せたら……  そんな希望が捨てきれなくて、返事のない彼に毎日話しかけていた。  正直言って、とても辛かった。  無抵抗の彼に触れて、犯してしまいたい衝動に駆られたことも一度や二度ではなかった。  それでも、その一線を越えてしまえばきっと自分が許せなくなってしまう。  何故ならそれは、まさしくこの忌避すべき社会システムの縮図でしかないのだから。  そんなある日、いつものようにルカに話しかけていた。  視点の定まらない虚ろな彼の瞳には、一体何が映っているのだろうか。  自分のことなど見ているわけもないのに、そうであればいいのにとその目を覗き込む。  …………きっと疲れていたのだろう。  彼が一瞬こちらを見て、目が合ったような気がするなんて。  彼の視線がもっと欲しくて、無意識に彼の頬に触れていた。  自我のないはずの彼の視線が、一瞬だけ逸らされた。
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