7.意思ある人形

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 こうして直接コマンドを受けるのは初めてのことだったが、本能が抗うことを許さなかった。  恐る恐る、ルカは彼に話をした。  気付いたら返品されていたこと。  いつのまにか自我を取り戻し、この施設の実態に気付いていたこと。  決して悟られまいと、人形のように振る舞っていたこと。  ルカがゆっくりと言葉を探しているあいだ、研究員は時折頷きながらじっと耳を傾けていた。  「そう……Good boy(よく言ってくれたね)、話してくれて、ありがとう」  ふわりと抱き寄せられて彼の表情は見えないが、優しいグレアに包まれているような、ほっとするような心地がした。  自我を取り戻してからようやく、初めて心が休まったような気がした。  「いつも世話してくれて……ありがとう」  そうだ、ずっとそれを伝えたかったのだ。  ルカは顔を上げて精一杯の声を絞り出すと、ようやく震えが治まった。  「僕がそうしたかったから、いいんだ」  彼も少し震えていた。  コマンドによる不可抗力とはいえ、ついに秘密を話してしまった。  彼の目的はやっぱりよくわからないけれど、今の自分の立場ではどのみち信じて頼るしかないのだろう。  ぎゅっと締まったのは彼の腕か、それとも自分の胸だろうか。  彼に身体を預けながら、これからのことをぼんやり考えた。  それからルカは、この日以降も「しばらくこのままでいて」と言われ人形の振りをし続けていた。  態度や言葉で示すことができないことが歯がゆいけれど、彼の優しさに依存してしまいそうになる自分が怖かった。
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