8.Subの感情

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 これが「執事」か――――  研究員の自宅で執事ルーカスと対面したルカは、何とも言えない気持ちで彼を眺めていた。  きっと自分もこのルーカスのように、なんの感情も抱くことなく忠実に仕えていたのだろう。  自分は果たしてどんな存在だっただろうか。  これまでのことは正直あまり覚えていないし、「執事」であった頃の記憶も朧げだ  ただ、例え自分のようにボロボロにされたとしても、あるいは彼のように誠実な主人に仕えていたとしても、自分の意識の中には何も残っていないという事実に背筋が寒くなる気がした。  ただ彼は、少し自分に似ているような気がした。  もしかすると…………ルーカスという執事に似ている自分のことを、研究員の彼は放っておけなかったのかもしれない。  そして毎日世話をしてくれるうちに、きっと情が移ってしまったのだろう。  そう考えてみると、確かに辻褄が合う気がした。 「ルーカスが望むのならば解放してやりたい。ただ、果たしてそれが彼のためなのかわからない」  と研究員の彼は、元「執事」としてのルカに問いかけた。  まさしく彼は、ルカを回復に導いたその人だ。  彼の手にかかれば「執事」の解放も夢ではないなんて。  ただ、今の社会の仕組みのままならば。  なにも感じず主人に仕えてそのまま一生を終えられていたのなら、それはある意味幸せだったのかもしれない。  それに彼らSubたちが解放されて、それからどうやって生きるのか。  現に自分は、一体どうやって生きていけばいいのだろうか……うまく言葉にできないが、ただただ怖くて仕方ない。  ルカは言葉を絞り出しながら、ぽつりぽつりとそう応えた。
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