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10.すれ違い
一度知ってしまった快感を手放す理由はなにもなく、毎日のように身体を重ねていた。
愛し合うセックスによる幸福感に加えて、DomとSubとのあいだで交わされるダイレクトなコマンドは、「執事」の自動翻訳で済まされるそれとは全く別物の快感で満たされるものだった。
ジャンは元々研究者として優秀であったが、本来Domとして抱えていたはずの「本能的欲求」が解放されたことにより、それからの彼自身のパフォーマンスの向上には目を見張るものがあった。
結果としてみずからその成果を実証することとなったジャンは、いつか執事の解放――Subがひとりの人間として共に暮らせる日を夢見て、密かに研究を続けることを決意した。
そして、この研究が形になった日には邪魔をされずに行動を取るために、施設内での地盤を固めるべくさらに仕事としての研究にも打ち込んだ。
こうして半年ほどが経った頃、ジャンは施設の役員にまで昇格した。
――そんなジャンと反比例するように、ルカの心が曇っていくことには気付いていなかった。
ジャンとしては毎晩のように愛を囁いて気持ちは伝えていたし、ルカのほうから求める夜も何度もあった。
つまり、傍から見れば相思相愛には違いない。
しかし、初恋を拗らせ過ぎた故の……良く言えば奥手、はっきり言ってしまえば口下手で。
あけすけに求愛をすることもなければ、ルカから無理に言葉を引き出すこともしてこなかった。
「代わりに抱かれている」と思い込みながらも割り切っていたつもりのルカであったが、愛を囁かれれば囁かれるほど、虚しい気持ちが心に闇を落としていった。
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