11.過去と未来

1/3

131人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ

11.過去と未来

 「ルカ……!」  ――――まだ声変わり前の、あどけない少年の声に呼ばれながら手を引かれ走っていた。  小さいながらもしっかりと握られたその手は温かい。  そうだ、どこにも居場所がなかった自分を、この子が連れ出してくれたんだっけ。  誰からも存在を許されず、かと言って逃げ場もなかったはずなのに。  彼だけはいつも笑顔で迎えにきてくれた。  彼といるときだけは、自分が存在することを許されたような気になれた。  だけど、こんな日々は長くは続かないことはわかっていた。  彼は本当は自分には関わってはいけない人だけど、今だけは彼との思い出が欲しかったから。  今日が最後かもしれないと毎日怯えながらも、狡い自分は何も告げずに彼との日々を噛み締めていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加