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「ルカ…………?」
深く眠っていたルカの目がようやく覚めて、ジャンはおそるおそる呼びかける。
「あ…………」
「ドロップになりかけて……戻ってきてくれてよかった」
「ごめんなさい……おれ…………」
そうだ、確かSubを解放すると聞かされて…………
「大丈夫、きみが不安になることはしたくないから……ゆっくりでいいから、聞かせてほしい」
今までルカを大事にしたくて、コマンドでなにかを強要することはほとんどしなかった。
しかし考えてみれば、ルカにとってのジャンは生殺与奪権を握っている人物に違いなく、言えないことの1つや2つ……普通に考えてみればあるはずなのだ。
さすがに嫌々抱かれているとかそういうことは考えたくはないのだが……知らずになにか悩ませていたのだろう。
「…………Subを、解放するって」
「うん」
「ルーカスを解放したら、おれはいらなくなる……?」
「…………えっ?何言って…………ああ、ごめん、よく言ってくれたね」
スッとルカの目から光が消えそうになり、慌てて掛ける言葉を探す。
「あいつが執事でなくなれば……おれみたいな都合のいいSubを…………代わりにする必要は、なくなるだろ?」
「………………え……………!??」
最後は消え入るような声でそう告げたルカの言葉を、ジャンは一瞬理解することができなかった。
「いや、別にいい」
「えっ、いや、違っ、違う…………!!」
まさか、まさかルカがそんな風に思っていたなんて。
確かにルーカスの存在には後ろめたい気持ちはあるけれど。
ルカのことを忘れられない自分のエゴで、ルカの思っているのと真逆だということは……さすがに墓場まで持っていくつもりではあるのだが。
ルカが何も覚えていないのならば。
無理に過去を掘り起こすことで、嫌な記憶や他のDomの記憶まで思い出してほしくもなかったし……ずっと会いたくて、愛してたなんて、伝えるつもりもなかったけれど。
「ルーカスのことで、悩ませてごめん」
「だから、いいから」
「よくない。ルカ、僕はずっと……ルカを愛してるから」
「わかったから、もういいって」
「よくない!」
思わず声を張り上げると、ルカの瞳が見開いた。
本気なのが、伝わっているだろうか。
「僕はずっと、ずっとルカだけが好きだから…………ルーカスのことは関係ない。ルカのことは……きみが嫌だと言っても絶対に離さない」
「うそ…………」
「嘘じゃない。きみにずっと会いたかった。大好きだった。突然会えなくなって、ずっと気がかりだった。ずっと忘れられなかった。Subを買いにいったとき、きみがいたらいいのにと思った。きみが施設に戻されてきたとき、絶対に取り戻すって…………」
なりふり構っている場合ではない。
言葉を振り絞って、精いっぱいの気持ちを吐き出した。
少しの沈黙が、とてつもなく長い時間に感じられた。
やがて、ルカは納得したような顔でひとりごちた。
「あ…………そっか…………」
「ルカ…………?」
ルカの目が細められ、表情が綻んだ。
「ジャン…………見付けてくれて、ありがとう」
「あ……えっ……? ルカ…………!??」
「おれもずっと、愛してる」
照れ隠しのように、ルカは俯いてジャンの胸に顔を押し付けて抱きついた。
一連の出来事をジャンが理解できるまで、しばらくのあいだ放心状態で固まっていた。
「ジャン、そろそろ戻って来いって」
「はぁ……ルカ……心臓に悪い。ねえ、もしかして、覚えてるの?」
「ん、さっき夢に見た。待たせてごめん」
「そっか、嬉しい……愛してる」
「ん、おれも」
本当の意味で気持ちが通じ合って重ねた唇は、ただそれだけで二人の頭を蕩けさせるのに十分だった。
「はぁ……ぁ、んっ……」
「ん……はぁ…………もう…………だめ…………」
「あ……好き…………」
「うん、愛してる…………」
十数年分の愛が成就した、泥のように甘い夜――溢れだす想いは尽きることなく、ただひたすらに溶け合っていた。
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