【番外編】ぼくのあいつ

1/1

131人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ

【番外編】ぼくのあいつ

執事の日(4/22)ということで、せっかくなので番外編更新です。 ソラくんの胸の内と、少しだけ距離が縮まったルーカスのお話です。 ◆◆◆  大人たちはみんなぼくのことが大好きだ。かわいいねって笑いながらどんなお願いだって叶えてくれる。    だけど、ひとりだけ、あいつだけはちょっと違う。    たしかにぼくが言ったことはなんだって聞いてくれるけど。だけど、笑っているのも見たことないし、まるでぼくのことなんて見ていない。気取ったような澄ました顔を怒らせてみたくて乱暴な言葉をぶつけてみても、ただ静かに返事をするだけの人形みたいな変なやつ。      ――ただ構ってほしかった、子供のわがままのはずだったのに、気付けは意地になっていて。彼の視界に入りたくて、それじゃあ足りずにもっと僕だけ見ていてほしくて。  その感情を欲望と呼ぶのだと気づく前から、彼はぼくのものだと心のどこかでずっと信じてた。    叔父さんとの関係も、『執事』という意味にも気が付かない振りをしていたけれどそんなの無駄だった。  ぶつけどころのない感情が大きくなるだけで、欲しくて欲しくてたまらなくて。夢にまで出てくる彼は生々しくて――抵抗もせずにすべてをさらけ出し、蕩けきった表情で僕に従うその姿は紛れもないSubだった。    僕がひと言お願い(命令)すれば、きっと応えてくれることを知っている。だけどそれは、ただの本能で。  相手が僕である必要なんてないし、ただの執事として僕の望みを叶える仕事をしているだけなのに。  だけどだれでもいいと言うのなら、そこにつけ込まずにはいられない。    悔しいけれど、少し可愛く(人間らしく)なったあなたは今でも僕を夢中にさせる。   「はぁ…………どうしたらいいのかな」    なんて、考えたって仕方のないことばかりを考えながら、愛しい彼をぎゅっと抱き寄せる。  昔は僕が彼の足元にくっつくようにつきまとっていたけれど、今では胸の中に抱え込めるほどには成長した僕の思いもまだまだ成長し続けている。    僕が望めばこうして懐に入ってくれるし、コマンドをかければ気持ちよさそうに委ねてくれる。  このまま押し倒してしまうことも簡単にできるけど、虚しくなるだけだってわかってるから――って、あれ?    僕が一方的に抱きしめているのはいつものことで、だけど背中にそろりと触れたこの感触は……夢じゃないなら、ルーカスが、まさか……?   「ル、ルーカス……?」    話しかけて手を離されたらどうしよう、だけどこんなに嬉しくて、黙っていられるわけなんてない。  抱きしめる腕を少し緩めて彼の顔を覗き込めば、明らかにおそるおそるという感じが伝わってきてもうどうしようもなく嬉しくて可愛くて。僕に気づいてこちらを見上げるその上目遣いで揺れる瞳は……僕の全身の血液が沸き立つように、ぶわっと駆け巡る音が聞こえるほどの破壊力だった。   「あ…………気持ちいい、と思いましたので、私もお返しをしました」   「え」   「気持ちいい、にお返しをすれば喜んで下さるはずだと、ルカ様が教えて下さいましたが……間違えていますでしょうか」   「あっ……えっ…………ああ!! いやいやいや!! 嬉しい! 嬉しいよ!!」    さっきから流れ込んでくる情報量が多過ぎて処理しきれない中で、とりあえずルカさんのしてやったり顔が浮かんでくるのが少し悔しいけれど。いや、だけどそれ以上に感謝しなきゃだな。見ていて焦れったいだろうことは、そりゃあもう十分自覚はしてるから。  大体、それって僕のいないところでルーカスが僕のことを話題にしてくれてるってことだよな? ああもう、なんだよそれ!   「嬉しい、ですか?」   「うん、気持ちいいし、嬉しいよ! …………心が満たされて……そうだな、ここ、心が気持ちいいのが、嬉しい」    言葉で説明するのは難しいけれど……そっとルーカスの手を取り自分の胸に当ててやる。   「ここが……気持ちいいのが、嬉しい……」   「うん、僕はすごく気持ちいいし、嬉しいよ」   「…………嬉しい」   「そう、嬉しい」   「あっ、いえ、」   「ん?」    ……ルーカスが否定の言葉を使うなんて珍しい。  僕、何か間違えたかな……!?   「あ…………」   「うん」   「…………私も、嬉しいです」   「…………ッッ!!」      ああああもう!! だからそういうとこだよもう!!  …………はぁ、ああ、本当に叫びたかったけど、ここで喉まで出かかった否定的な言葉を飲み込んだ僕の愛の力を褒めてほしい、本当に。  ここで誤解させてしまったら何もかも水の泡になってしまうかもしれないからな…………はぁ、よし、深呼吸だ。   「ソラ様?」   「あぁ、うん、嬉しいね!!」    もうこのままヤッてしまってもいいんじゃないか……? なんて思わせるぐらいの距離感で、若干ヤケクソ気味なのは許してほしい。  だって、「嬉しい」なんて気持ちはとっくに突き抜けてるから。   「……はい。嬉しいです」    ああもう、可愛い。    本当は全部わかってて、僕を試してるんじゃないかとすら思えるほどには振り回されている自覚はあるけれど。  だけど、もしも無理に身体を繋げていたとしたら、きっとここまで心を開いてくれることもなかったはずだと信じたい。だから、あともう少し――――     「ソラ様、可愛いです」   「はは…………ありがと」    今は「可愛い」だけでも贅沢だけど、いつかは僕自身を求めてほしい。  心を向けてくれたあなたにつけ込んで、じんわりと僕を刷り込んでいくように――キスのコマンドも使わずに唇を重ねてみれば、目を閉じて受け入れてくれたその意味は、まだ僕だけが気付いていればそれでいい。 ◆◆◆ 読んで下さってありがとうございました。 ルーカスはまだ感情表現が拙いですが、はたから見れば完全にイチャイチャしてる距離感です。 ※現在、本作の同人誌制作中です。 5月末頃の頒布を目標に作業中ですが、 エブリスタでのお知らせ等の機能を理解しておらず……恐れ入りますが一旦こちらをもって告知とさせて頂き、 また実際の頒布直前のタイミングで、何らかの形でお知らせできればと考えております。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加