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壊れたまま死んだほうが幸せだった。
そんなことを思う日々が続いたが、研究員氏の手厚い保護により、ルカの心身は以前の状態にまで戻りつつあった。
彼は一切感情を示さない(振りをしている)自分に対して真摯に世話をしてくれて、まるでひとりの人間に対するように、とても優しい声で話かけてくれるのが少しむず痒い。
彼の目的も、研究の内容も、自分はどんな実験に使われていて、いつまでここにいるのか何もわからない。
それでも、いっときでも穏やかな日々を過ごせているのは彼のおかげには違いない。
叶うならば、自分の名を呼ぶ彼の声に応えたい。
彼の目を見て、感謝の気持ちを伝えたい。
「大丈夫だから」と言って握ってくれるその手を、握り返したい…………
しかし自分に自我があることを悟られることは許されない。
悟られたら最後、この日々は終わるのだ。
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