父の死

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父の死

 エリスは馬に乗り、森の中を散策していた。  前方には父、そして後方には妹がいる。  毎年、夏の季節になると、家族みんなで避暑地にある別荘で過ごすのが常だった。  散策から帰ると、庭で母が用意してくれた紅茶と軽食と共に、家族水入らずの一時を楽しむ――。  次の夏も同じように――いや、次の夏は家族が一人増えて、そして、その次の夏はまたもう一人家族が増えているかもしれない。祖国を捨てることになっても、家族揃って暮らせればそれで問題はない。ルードヴィッヒも約束してくれたではないか――。 (ここは……?)  エリスが目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。  横たわった姿勢のまま、今の自分が置かれている状況を確認する。  見上げると、見慣れた天井が目に入った。 (私の部屋……?)  がばっと起き上がり、時計を確認すると、夕食前の時間だった。  確か自分は生徒会室に行く予定だったはず。  ルードヴィッヒはまだ自分のことを待っているのではないか――?  急いでベッドから立ち上がった瞬間、自分の身に起こった全てのことを思い出した。  エリスが自室から出ると、その音を聞きつけ、クロードがやって来た。  さすがのクロードも動揺を隠しきれていないようだった。気遣うような視線をエリスに送っている。  エリスが席に着くと、クロードがハーブティーを運んできた。 「……ありがとう」  小さな、消え入りそうな声しか出なかった。  せっかく出してもらったハーブティーだったが、全く手を付ける気にはならなかった。長い時間、水分補給をしていないのだから、喉は乾いているはずだった。  喉を潤すどころか、何もする気にはなれなかった。ただ、この場に存在しているだけ――抜け殻、とはまさに今の自分のことだ。 「……父は、どうして亡くなったの……?」  これだけのことを尋ねるのに、えらく勇気がいった。 「慣れない環境で大変なご苦労をされたようで……」 「そう……」  それだけ聞けば十分だった。
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