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「やめてよ、花子さん。林刑事が勘違いするだろ。俺は花子さんの浴衣姿なんて興味ないから」
あたし達の会話を聞きながら、楽しそうに林刑事は笑っている。
「うふふ、本当に2人は仲良しね」
……って、どこが?
太郎は毎晩ダンゴムシみたいに、あたしの部屋の床で丸まって寝てるんだってば。
林刑事の携帯電話が鳴り、林刑事は急遽出動することになった。
「殺人事件が起きたの。ごめんなさいね。今夜はゆっくり休んでね。明日は主人に駅まで送らせるわ」
「すみません。林刑事色々ありがとうございました。お仕事頑張って下さい」
「ありがとう。次に会うときが楽しみだわ。おやすみなさい」
あたし達は林刑事を見送る。どこの地も刑事という職業は昼夜を問わない。
「林刑事も大変だね。息子さんも警察官なんだって」
「そうなんだ。そんなことより太郎、あたしの部屋に入ったら殴るからな」
あたしは浴衣の胸元を隠す。一応年頃のレディなんだから。我が身は自分で守らないと。
ヘタレとはいえ、一応太郎も思春期の男だ。男が旅先で獣になっても不思議はない。
「心配しなくても大丈夫だよ。襲わないから。だからお願い! 花子さん、同じ部屋で寝させて。布団部屋の端に敷くからさ。それか襖開けたままでもいい。1人は怖いんだよ。お願いだよ、花子さーん」
レディと同じ部屋で一夜を共にしたいと?
「太郎は浴槽の中で全身塩に漬かってろ」
「花子さぁーん!」
あたしはパシッと襖を閉める。
太郎は襖をとんとんと叩いていたが、襖越しにメールの着信音がして静かになった。
多分、メールの相手は榊さんだ。
あたしは電気を消して、布団に潜り込む。ふかふかの敷き布団にはパリッと糊のきいたシーツ。殺害現場を見て疑念が晴れたあたしは、すっきりとした気分で眠りについた。
明日は東京だ。
母に頼み、あることを調べてもらおう。
あたしの推理が正しければ、真相は解明されるはず。
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