不穏のカケラ

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「おはよう」が飛び交う月曜日の朝が、やって来た。 あたしのランドセルを、H小学校前のバス停で 見つけた人が親切に、学校に届けてくれて、 その後、担任が、転校生の お宅訪問を兼ねて届けてくれたというわけだった。 帰宅したあたしは、すぐに学校に連絡を入れたので、 大した騒ぎにもならずに済んだようだ。 転校早々、あたしだって問題児になりたくないし。 もちろん、自分が体験したことは 誰にも信じて貰えないだろうことは 承知しているので、ここは黙っておこう、と 思ってる。 1時限目が始まり、国語の教科書を 生徒の1人が棒読みしている最中、担任が あたし達の机の間を練り歩く、ありきたりの風景に 欠伸を噛み殺しながら耐えていたが、 後ろから来て通り抜けてゆく担任を ふと追ったあたしの眼は、その刹那、 彼の腕に釘付けになってしまう‥‥。 腕のフォルムと、文字盤に見覚えのある腕時計。 もし、あの雑木林で、追ってきた姿無き男の腕に 捕獲されていたならば、 あたしは今、此処に居られたのだろうか? あの腕は、悪霊の一部であって、 この担任とは、まるで関係ないとは思いたいが、 例えば、誰かからのあたしへの警告だったりして? 幼くして不慮の死を遂げた、少年少女の魂が カオリの姿を借り、 あたしに危険を回避するよう、 教えてくれたのかも知れぬ。 悪人が、(はな)から悪人に見えるとは限らないから、厄介なのだ。 あたしの疑心暗鬼は、果たして 取り越し苦労で終わるのだろうか。 「次、来栖(くるす)、読んで!」 体育系の、見るからに健康的で 、保護者からの受けも良さそうな担任からの 名指しで、あたしは立ち上がる。 その日の放課後、 バス停にカオリちゃんはいない。
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